テーブルの向こうに坐って目玉焼を平らげにかかっているのは、四十五、六の小柄な、痩せこけた、貧弱な体格の男で、赤茶けた髪をし、ぼろぼろになったへちま(三字の上に傍点)そっくりの、まばらな赤茶けた顎ひげを生やしていた(この比喩、特に《へちま》という言葉が、一目見るなりなぜか「アリョーシャ」の頭にひらめきました。あとになって彼はそれを思い出したのでした)。
部屋の中にはほかに男はいませんでしたから、明らかに、ドアの向うから「どなた!」と叫んだのは、この男にほかなりませんでした。
しかし、「アリョーシャ」が入って行くと、男は坐っていたベンチからまるではじかれたようにとび上がり、穴のあいたナフキンで手早く口もとをぬぐいながら、「アリョーシャ」の方へとんできました。
「お坊さんが寄付集めに来たわ、来るに事欠いて家あたりへさ!」
一方、左隅に立っていた娘が大声で言い放ちました。
この娘は「いたってきちんとしてはいるものの貧しい服装をした、赤毛の髪のまばらに薄い、かなり不器量な若い娘」です。
そして彼女は、入ってきた「アリョーシャ」を、さもうとましげに眺めまわした娘です。
だが、「アリョーシャ」の方へ駆けよってきた男は、とたんに踵でまわれ右すると、興奮した、何やら素頓狂の声で娘に答えました。
「そうじゃござんせんよ。ワルワーラ・ニコラーエヴナ、違います、見当違いさんすよ! つかぬことをお伺いしますが」ふいに彼はまた「アリョーシャ」の方に向き直りました。
「何の酔狂でその・・・・こんな穴倉をお訪ねくださいましたので?」
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