「アリョーシャ」は注意深く男を見つめました。
この男に会うのは、これがはじめてでした。
この男にはどこか、ぎくしゃくした、気ぜわしい、苛立たしいところがありました。
明らかに今一杯やったところらしいですが、酔ってはいませんでした。
男の顔は極度の厚かましさと、同時にまた、そこが奇妙なのですが、一目見てわかるほどの小心さとをあらわしていました。
ちょうど、永いこと服従を強いられ、辛抱に辛抱を重ねてきた人間が、突然ふるいたって、本領を示そうとした、といった感じでした。
あるいは、もっと適切に言うなら、ひどく相手を殴りたくてならないのに、相手に殴られはせぬかとひどく恐れている人間のようでした。
これは考えてみるとおもしろい表現ですね。
話し方にも、かなり甲高い声の抑揚にも、なんとなく神がかり的なおかしさがあり、それが時には悪意にみち、時には臆しがちで、一定の調子を保てず、素頓狂なものになるのでした。
このあたりの人物描写はおそらく誰も真似できないのではないかと思います。
この長い小説の中で、しかもこのあたりまで物語が進行している中で、相当の注意力と集中力を維持しつつこのような描写をすることはなかなかできることではありません。
《穴倉》という質問を発するにも、まるで全身をふるわせ、目を剥いて、「アリョーシャ」が思わず機械的に一歩あとずさったほど近々とつめよってくるのでした。
男はつぎや染みだらけの、黒っぽい、おそろしく粗末な、南京木綿か何かの外套を着ていました。
ズボンは、もう久しくだれもはかぬような、度はずれに派手なチェックの柄で、何やら非常に薄い布地なので、下の方が皺くちゃになり、そのために上にたくしあがって、まるで小さな子供のように、そこから足が突き出ていました。
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