「出会いとはまた何のことでございましょうね? それは例のあの一件のことじゃございませんか? つまり、へちまの、風呂場のへちまの一件のことでは?」
彼はふいに思いきり身をのりだしたため、今度は本当に膝が「アリョーシャ」にぶつかりました。
唇が何か一種特別な具合に、糸のように結ばれました。
「へちまって何のことですか?」
「アリョーシャ」はつぶやきました。
「そいつはね、パパ、僕のことを言いつけに来たんだよ!」
「アリョーシャ」にはすでにききおぼえのある先刻の少年の声が、片隅のカーテンのかげから叫びました。
「さっき、そいつの指に嚙みついてやったんだ!」
カーテンがさっと開かれ、「アリョーシャ」は隅の聖像の下の、ベンチと椅子をつないだ寝床の上に先ほどの敵を見いだしました。
少年は自分の外套と、さらに古ぼけた綿入れの夜具をかけて寝ていました。
見るからに身体具合がわるいらしく、燃えるようなその目から察すると、熱が高いようでした。
少年は先ほどとは違って、今や恐れげもなく、「アリョーシャ」をにらみつけていました。
『僕の家だから、今度は手出しできまい』といった感じでした。
「だれの指に嚙みついたんだと?」
二等大尉は椅子から跳ね起きそうにしました。
「あの子はあなたさまの指に嚙みついたので?」
「ええ、僕にです。さっき通りでほかの男の子たちと石をぶつけ合っていましてね。向うは六人なのに、お宅の坊ちゃんはたった一人なんです。僕がそばに行ったら、僕にも石をぶつけて、そのあともう一つ頭にぶつけられました。僕が何をしたのってきいたところが、いきなりとびかかってきて、いやっていうほど指に嚙みつきましてね。なぜだか、わからないんですけど・・・・」
「今すぐ折檻してやりますです! たった今、折檻してくれます」
二等大尉は今度はもうすっかり椅子から跳ね起きました。
「でも、僕はべつに文句を言ってるわけじゃないんです、ただお話ししただけですから・・・・折檻なさるなんて、僕は全然望んでやしません。それに坊ちゃんは今、ご病気のようでもあるし・・・・」
「それじゃ、あなたさまは手前が折檻するとでもお思いになりましたので? 手前がイリューシャのやつめをふんづかまえて、たった今あなたさまの目の前で、あなたさまを喜ばせるために折檻するとでも? そんなに急いでやらにゃなりませんですか?」
二等大尉はまるで今にもとびかかりそうな身ぶりで、いきなり「アリョーシャ」の方に向き直ると、口走りました。
何という言い草でしょう、今自分で「今すぐ折檻してやりますです! たった今、折檻してくれます」と二度も強調して言ったじゃないですか、それなのに人の心を試すようなことをするとは相当心がゆがんでいます。
「そりゃ、あなたさまの指についてはお気の毒に思いますが、いかがでござりましょう、イリューシャのやつめを折檻いたす前に、今すぐあなたさまの目の前で、とっくりご満足いただけるよう、ほれ、このナイフで手前の指を四本ざっくり切り殺すことにしましては。復讐欲を充たすには、指の四本も詰めれば十分と思うんざんすが。よもや五本目までは要求なさりますまい?」
彼は心がゆがんでいるだけでなく、人生の絶望のため破れかぶれになっているのですね。
彼はふいに絶句し、息がつまったかのようになりました。
顔の線の一つ一つが動き、ひきつって、目つきまでひどく挑戦的になってきました。
まるで錯乱したみたいでした。
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