「これで僕にもすべてがわかったような気がします」
なおも坐りつづけたまま、「アリョーシャ」は沈んだ口調で静かに答えました。
すでに「アリョーシャ」も大体のことは察しがついていたと思います。
「つまり、お宅の坊ちゃんはとても気立てがやさしくて、お父さん思いなので、あなたを侮辱した男の弟である僕にとびかかってきたんですね・・・・これでわかりました」
考えこみながら、彼はくりかえしました。
「しかし、兄のドミートリイは自分の行為を後悔しています。僕は知っているんです。ですから、もし兄がこちらへ伺わせていただくなり、でなければ、いちばんいいのは例の同じ場所でもう一度お目にかかるなりすることができれば、兄はみなの前であなたに赦しを乞うにちがいありません・・・・あなたがお望みなら、の話ですけれど」
しかし、「スネギリョフ」という人物は素直ではありませんので次のように言うのですね。
「と、つまり、顎ひげをひんむしっておいて、赦しを乞うというわけでございますか・・・・これですっかりけりがついたし、気もすんだ、とそういうわけざんすね?」
「いえ、とんでもない、まるきり反対です。兄はあなたのお気のすむことでしたら、どんなふうにでもするはずです」
「そうしますと、手前がもしあの方に例の、《都》という名前ですが、あの飲屋か、でなけりゃ広場で、わたしの前にひざまずいてもらいたいと申したら、あの方はひざまずいてくださるんでしょうか?」
「ええ、ひざまずくでしょう」
「なんという感激。感激のあまり、涙ぐみましたです。あまりにも感じやすい性質でござりましてな。失礼ですが、紹介させていただきますです。これが手前の家族でございまして、娘二人に息子一人、これが手前の一族でござります。手前が死んだら、どなたかがこの子供たちをかわいがってくださるんざんしょうか? また手前が生きております間、この子供たち以外に、だれか、こんなろくでなしの手前を愛してくれる者がおりましょうか? 神さまは手前のような人間一人ひとりにまで、たいへんな恵みを授けてくださったものでござりますね。なにせ、手前のような人間でも、やはりだれかに愛してもらわにゃなりませんですし」
「ええ、まったくそのとおりですとも!」
「アリョーシャ」は叫びました。
「スネギリョフ」一家の貧しさは、父親の退職と、妻の病気と、娘の障害のためのようですが、こういう状態ではとくにこの時代では貧困から抜け出すことは無理かもしれません。
「悪ふざけもいい加減になさいよ、どこかのばか者がくりゃ、そうして恥をさらすんだから!」
窓のところにいた娘が、嫌悪と軽蔑の表情で父親をかえりみながら、だしぬけに叫びました。
この娘は左隅に立っていた娘で「お坊さんが寄付集めに来たわ、来るに事欠いて家あたりへさ!」と言った口の悪い娘です。
「しばらくお待ちなさい、ワルワーラ・ニコラーエヴナ、首尾一貫させてくださいよ」
命令的な口調でこそあるが、大いにけしかけるような顔で娘を眺めながら、父親は叫びました。
「スネギリョフ」も「ワルワーラ・ニコラーエヴナ」も家族ですから。
「なにせ、ああいう気性でござりましてな」
彼はまた「アリョーシャ」の方に向き直りました。
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