しかし、「ホフラコワ夫人」が「アリョーシャ」の手をとり、先に立って連れだしました。
玄関の間で夫人はまた先ほどのように彼をひきとめました。
「プライドの高い人ですわ、自分に打ち克とうとなさっているんですもの。でも、善良で魅力的で、とても心の寛大な方!」
「ホフラコワ夫人」が小さな声で感嘆しました。
「ああ、あたくしあの人が好きですわ、時によると特別と言ってもいいくらいに。ですから、あたくし今やまた、何もかもがとても嬉しくって! アレクセイ・フョードロウィチ、あなたはご存じなかったんですのね。実はね、あたくしたちみんな、つまり、あたくしも、二人の叔母さまも、それにリーズまでもが、もうまるひと月もの間、このことばかり願い、祈ってきたんですの。ほかでもありませんけれど、あの方になぞ目もくれず、まるきり愛してもいない、あなたの大好きなドミートリイ・フョードロウィチと、あの方がきっぱり別れて、世界じゅうでだれよりもあの方を愛している、教養の豊かなすばらしい青年であるイワン・フョードロウィチと結婚なさることをですわ。あたくしたち、ちゃんと陰謀をたくらんだんですのよ、あたくしがこの町を去らないのも、ことによるとそのためにすぎないかもしれませんわ・・・・」
わたしには、この「ホフラコワ夫人」の言っている意味が全然わかりません。
先ほどの会話の内容では「カテリーナ」と「イワン」は別れたのではないですか。
それなのに、「ホフラコワ夫人」は「カテリーナ」が「ドミートリイ」と別れて「イワン」と一緒になると思ったのでしょうか。
そして、その「カテリーナ」の対応を絶賛していますが、どこをどう考えればそういうふうになるのでしょうか。
「でも、あの人はまた侮辱されて、泣いていたじゃありませんか!」
「アリョーシャ」が叫びました。
「女の涙を信用なさってはいけませんわ、アレクセイ・フョードロウィチ。あたくし、こういう場合には常に女性の敵で、男性に味方しますのよ」
この「ホフラコワ夫人」の発言を聞いて、やはり彼女には彼女なりの一貫した考え方があるようにも思えます。
「ママ、その人をすっかり堕落させて、だめにしてしまうわよ」
ドアの向うから「リーズ」の細い声がきこえました。
「いいえ、僕がすべての原因なんです、僕はひどくわるいことをしました!」
なおも心慰まぬ「アリョーシャ」は、自分の行為に対するやりきれぬ羞恥のあまり、こうくりかえし、羞恥に両手で顔を覆ったほどでした。
「とんでもない、あなたは天使のように振舞ったじゃありませんか、まさに天使のように。そのことはあたくし、百万遍くりかえしてもようございますわ」
ここで、なぜ「アリョーシャ」が「天使のように振舞った」ということになるのでしょう、かなりひどい言葉で「カテリーナ」を攻撃していたようにしかみえませんでしたが。
「ママ、どうしてその人が天使のように振舞ったの」
また、「リーズ」の声がきこえました。
わたしの疑問とまるで同じですね。
「あの様子を見ているうちに、僕はなぜかふいに」
「リーズ」の声も耳に入らぬかのように「アリョーシャ」はつづけました。
「あの人はイワンを愛しているのだという気がしたものですから、あんなばかなことを言ってしまって・・・・これからどうなるでしょう!」
「だれが、だれがなの?」
「リーズ」が叫びました。
「ママ、ママはきっとあたしを殺してしまいたいのね。いくらきいたって、返事してくださらないじゃないの」
わたしも何かわからなくなってきました。
みんなの気持ちを少しまとめてみましょう。
「アリョーシャ」はどう思っているでしょうか。
「カテリーナ」が「イワン」を愛していると思っています、だから苦しめていると。
そして、「カテリーナ」は「ドミートリイ」を少しも愛していない、そして愛していると自分で思い込んでいると。
「ドミートリイ」も「カテリーナ」を愛しておらず、尊敬しているだけ。
それでは「イワン」はどうでしょう。
「イワン」は「カテリーナ」は自分を愛していないし、「ドミートリイ」への愛は偽りの愛だと思っています。
そして、「アリョーシャ」の言葉、「あの人はイワンを愛しているのだという気がしたものですから、あんなばかなことを言ってしまって・・・・」、これは、「カテリーナ」が「イワン」を愛してないことがわかったということだと思います。
となると、やはり「カテリーナ」は二人とも愛していないことになります。
ここで、確かに愛が存在するのは「イワン」の「カテリーナ」に対する愛だけということになります。
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