このとき、小間使が駆けこんできました。
やはり、邪魔が入って「リーズ」の疑問は、うやむやに終りそうです。
「カテリーナさまのお加減がわるいんです・・・・泣いていらっしゃいます・・・・ヒステリーを起して、もがいてらっしゃるんです」
「アリョーシャ」の傷の手当からはじまって次から次へとたいへんにぎやかな家だという印象です、「カテリーナ」は冷静に見えても内心はやはりかなりのショックを受けていたんですね。
「どうしたっていうの」
今度はもう心配そうな声で「リーズ」が叫びました。
「ママ、あの人どころか、あたしがヒステリーを起しそうだわ!」
「リーズ、お願いだから、大きな声をださないで。あたしを悲しませないでちょうだい。あなたはまだ、大人の知っていることを何もかも知るわけにはいかないのよ、そういう年ごろなんですから。今戻ってきてから、あなたに教えて差支えないことは、みんな話してあげます。まあ、本当に! 今行くわ、すぐに行くわ・・・・ヒステリーというのは、良い兆候ですのよ、アレクセイ・フョードロウィチ、あの人がヒステリーを起したのは、とてもいいことですわ。それでなければいけませんわ。あたくしこういう場合には、いつも女性の敵で、ああいうヒステリーとか、女の涙とかに反対なんですの。ユーリヤ、すぐに行って、あたしが癒してさしあげますって言ってちょうだい。イワン・フョードロウィチがあんなふうに出ていらしたのは、彼女自身の責任ですもの。でも、あの人は発ちゃしませんよ。リーズ、お願い、大きな声をださないで! ああ、そうね、大きな声をだしてるのは、あなたじゃなく、あたしのほうだったわね。お母さんを赦してちょうだい、でもあたしは感激しているのよ、感激だわ、ほんとに感激! あなたはお気づきになりまして、アレクセイ・フョードロウィチ、さっきイワン・フョードロウィチが出て行ったときの態度は、なんて青年らしかったことでしょう、あれだけの啖呵を切って、さっと出ていかれるなんて! あたくし、あの方は学問一筋の学者だとばかり思っていましたのに、ふいにあんな熱っぽい口調で、率直に、若々しく、初心なくらい若々しくお話しになるんですもの。それがまた実にすてきでしたわ、ほんとにすてき、あなたにそっくりね・・・・それにあのドイツ語の詩をおっしゃったりして、あなたにそっくりですわ! でも、急いで行ってきますわ、急いで。アレクセイ・フョードロウィチ、大急ぎであの用事をすませて、なるべく早く帰ってきてくださいませね。リーズ、何か用はないこと? お願いだから、アレクセイ・フョードロウィチを一分たりとお引きとめしないでちょうだい。すぐあなたのところに戻ってきてくださいますからね・・・・」
「ホフラコワ夫人」は、すぐに「カテリーナ」のところへ行った方がいいと思います。
彼女は、「ヒステリーというのは、良い兆候ですのよ」と言っていますがどういうことでしょうか。
「ヒステリー」や「女の涙」には反対、つまり「イワン」が出ていったのは「カテリーナ」の責任なのでヒステリーを起したのは自業自得だと言いたいのでしょう。
つまり、「ホフラコワ夫人」の理解としては、「カテリーナ」が本当は「イワン」を愛していて、その本心を隠してあのような対応をしたのでヒステリーを起したということですね。
しかし、「ホフラコワ夫人」の「イワン」に対する情熱的な発言は彼を愛しているかのようですね。
そして、「アリョーシャ」には「大急ぎであの用事をすませて、なるべく早く帰ってきてくださいませね」と言っています。
「あの用事」とはスネギリョフの家に行って、二百ルーブル渡すことです。
「ホフラコワ夫人」はやっと走りでて行きました。
「アリョーシャ」は出かける前に、「リーズ」の部屋のドアを開けようとしかけました。
「絶対にだめよ!」
「リーズ」が叫びました。
こんなところでも作者は行き届いた描写をしています。
「今はだめ! そのまま、ドアごしに話してちょうだい。どうして天使になんか祭りあげられたんですの? あたし、それだけが知りたいの」
この発言も、少女の気持ちになりきって微妙な描写がされていると思います。
「ひどくばかなことをしたためですよ、リーズ! さようなら」
「そんな帰り方をなさるもんじゃないわ!」
「リーズ」が叫びかけました。
「リーズ、僕は深刻に悲しんでるんです! すぐ戻ってきますけど、僕には大きな、とても大きな悲しみがあるんです!」
そして彼は部屋を走りでました。
「アリョーシャ」の心の中は「ゾシマ長老」のことと家族の三人のことと「リーズ」のこと二百ルーブルのことなどでたいへんなことになっていると察します。
0 件のコメント:
コメントを投稿