2017年8月16日水曜日

503

「イワン」はボーイをよんで、魚スープと紅茶とジャムを注文しました。

「何でも覚えてるさ、アリョーシャ、お前が十一になるまではおぼえているよ、あのときこっちは数えで十五だった。十五と十一というのは、たいへんな違いで、その年ごろの兄弟は決して兄弟になれないもんだよ。お前を好きだったかどうか、それさえわらんね。俺はモスクワへ行っちまって、最初の何年かはお前のことなんぞ全然思いだしさえしなかったもの。そのあと、今度はお前がモスクワへ来てからも、たしかどこかで一度会っただけだったな。それに、今度だってこの町で暮してもう足かけ四ヶ月になるけれど、今までお前とはろくに口もきかなかったし。俺は明日発つんだが、今ここに坐って、何とかお前に会って別れを告げたいものだと思っていたところなんだ、そしたらお前がわきを通りかかるじゃないか」

ここで面倒なことに、また数え年で年齢が示されています、(33)で説明したように、生まれた瞬間に一歳と数え、新年を迎えるごとに、1歳づつ増える数え方です。

数え年を計算する時点で、その年の誕生日を過ぎていればプラス1歳、誕生日がまだだったらプラス2歳です。

前に、「イワン」は13歳ごろにはその家を出て、モスクワのある中学校の全寮制学校に入ったとありましたので、計算は合っていると思われます。

「じゃ、僕にとても会いたかったわけ?」

「そうとも。最後に一度お前と近づきになっておきたかったし、俺という人間も知ってもらいたかったからな。そうしたあとで、別れたかったんだよ。俺の考えだと、近づきになるのは別れる前がいちばんいいね。この三ヶ月の間、お前がずっと俺を見つめていたのは、気づいていたよ。お前の目には何かたえず期待があった。それが俺には我慢ならなかったので、お前に近づこうとしなかったんだ。でお、最後にやっとお前を尊敬することを学んだのさ。こいつ、なかなかしっかり立ってやがるってわけだ。おい、俺は今笑っちゃいるけど、まじめに話してるんだぜ。だってお前はしっかり立っているだろう、ええ? 俺はね、どういう基盤に立っているにせよ、しっかりした人間が好きなんだよ、たとえばそれがお前みたいな小さな小僧っ子でもさ。期待するようなお前の眼差しも、しまいには不快じゃなくなってきたんだ。むしろ反対に、しまいには、期待するようなお前のその眼差しが好きになったんだよ・・・・お前はどういうわけか、俺を好きらしいね、アリョーシャ?」

「イワン」は「ドミートリイ」と待ち合わせていたのですから、「アリョーシャ」をさも待っていたというふうに言うこと自体、信用できないですね。

「好きです。ドミートリイ兄さんは、イワンは墓石だなんて言うけど、僕ならイワンは謎だって言うな。兄さんは今でも僕にとって謎ですよ、でもある程度はもう理解できましたけどね、それもつい今朝からですよ!」

「墓石」とは、口が固いという意味でしたね。

「それはいったいどういうことだい?」

「イワン」が笑いだしました。

「怒らない?」

「アリョーシャ」も笑いだしました。

「なんだい?」

「つまり、兄さんもやっぱり、世間の二十三歳の青年とそっくり同じような青年だってことですよ。やっぱり若くて、ういういしくて、溌剌とした愛すべき坊やなんだ、おまけに嘴の黄色い雛っこでね! どう、そんなに侮辱したことにはならないでしょう?」


「嘴の黄色い雛っこ」とは「アリョーシャ」もずいぶん思い切ったことを言いますね、「イワン」は「二十三歳」らしいのですが、私は二十四歳だと思っていました、登場人物の年齢について、よくわからなくなりましたので、だいたいということでいいとするほかありません。


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