2017年8月19日土曜日

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「イワン」は眉をひそめ、考えこみました。

「兄さんはスメルジャコフのことで眉をひそめたの?」

「アリョーシャ」はたずねました。

「うん、あの男のことでだ。しかし、あんなやつ、くそくらえだ。ドミートリイには本当に会いたかったんだけど、今となってはもうその必要もないよ・・・・」

「イワン」はきっと「スメルジャコフ」のことを信用できない奴だと思い頭にきたのでしょう、ここで「ドミートリイ」を待っていることもバラされたのですから。

「イワン」は気乗りせぬ口調でつぶやきました。

「兄さんは本当にそんなに早急に行ってしまうんですか?」

「うん」

「じゃ、ドミートリイ兄さんとお父さんはどうなるの? どういう結果に終るの?」

「アリョーシャ」は不安そうに言いました。

「またお得意の念仏がはじまったな! 俺に何の関係があるって言うんだい? 俺がドミートリイの番人だとでも言うのかい?」

「イワン」は苛立たしげに話を断ち切ろうとしかけましたが、ふいに何やら苦々しげに笑いました。

「これは殺した弟のことを神さまにきかれて、カインのした返事だったな(訳注 創世記第四章。弟アベルを殺したカインは、主に弟の行方をきかれて「知りません。私が弟の番人でしょうか」と答えた)、ええ? たぶん、今の瞬間そう思ったんだろう? しかしな、冗談じゃないよ、本当に俺がここに残ってあの二人の番人なんぞしていられるかね?用事は終ったんだから、俺はもう行くよ。お前まさか、俺がドミートリイに嫉妬しているだの、思ってるんじゃあるまいな? ええ、いまいましい、こっちには自分の用事があったんだ。その用事を終えたから、俺はもう行くのさ。用事はさっき片づけた、お前もちゃんと見ていただろうに」

「さっきって、カテリーナ・イワーノヴナのところで?」

「そう、あそこでさ。そしたらいっぺんに解放されたよ。それなのに、いったい何だい? 俺がドミートリイに何の用があるっているんだ? ドミートリイなんぞ関係ないよ。俺にはカテリーナに自分の用事があっただけさ。むしろ反対で、お前も知ってるとおり、ドミートリイのほうがさも俺と示し合わせているように振舞っていたんだぜ。こっちは全然頼みもしないのに、兄貴はまじめくさって彼女を俺に譲って、祝福するんだからな。何もかもお笑いぐさみたいなもんさ。そうさ、アリョーシャ、そうだとも、俺が今どんなに肩の荷をおろした気分でいるか、わかってもらいたいな! ここに坐って、食事をしていても、本当の話、自由の最初のひとときを祝うために、シャンパンでも注文したくなったほどだよ。ちぇっ、ほとんど半年近くだものな、それをふいに何もかもいっぺんにひっぺがしてやった。つい昨日でさえ、その気にさえなりゃ、こんなにあっさり片づけられるなんて、考えてもみなかったからな!」

「兄さんの言ってるのは、自分の恋のことでしょう?」

たしかに、「イワン」は気が動転しているのか、感情むきだしでとんでもない話をしていますね。

そもそも「イワン」は「カテリーナ」に今日振られたばかりであり、正常でいられるはずはないのですが、自己本位の性格が言動にあらわれています。


すぐにでもこの場から立ち去りたいという気持ちで頭の中がいっぱいで「フョードル」や「ドミートリイ」などのことを考える余裕もないようですね。


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