2017年9月11日月曜日

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まだ「イワン」の続きです。

・・・・と、まさにこの瞬間、寺院のわきの広場を、当の大審問官たる枢機卿が通りかかったのだ。ほとんど九十歳に近い老人で、背が高く、腰もまっすぐだし、顔は痩せこけて目は落ちくぼんでいるが、まだ火花のようなきらめきを放っている。しかし、昨日ローマの信仰の敵どもを焼き殺したとき、民衆の前で着飾っていた、あのきらびやかな枢機卿の衣裳ではなく、このときは古ぼけた質素な修道僧の法衣をまとっているにすぎない。そのあとには一定の間隔をおいて、陰気くさい補佐役たちや、奴隷、それに《神聖な》護衛たちがつき従っている。大審問官は群衆の前で立ちどまり、遠くから観察する。彼は一部始終を見た。柩がキリストの足もとに置かれるのも見たし、少女が生き返るのも見た。そして、大審問官の顔は暗くなった。真っ白な濃い眉をひそめ、その眼差しも不吉な炎にかがやいた。彼は指を突きだし、キリストを引っ捕らえるよう護衛に命じた。すると、なにしろ彼の権力は絶大だし、それに民衆はもうすっかり教えこまれ、馴らされて、彼の命令を恐れおののいてきくようになっていたため、ただちに護衛の前に道をあけ、護衛たちはふいに訪れた死の沈黙の中でキリストに手をかけ、引きたててゆく。民衆はたちまち、全員がまるで一人の人間のように、老審問官の前に跪拝する。大審問官は無言のまま民衆に祝福を与え、わきを通りすぎてゆく。護衛兵は神聖裁判所の古い建物にある、狭い陰鬱な丸天井の牢に捕虜を連れてゆき、錠をかける。昼が過ぎ、熱気のこもる暗い《息たえたような》セヴィリヤの夜が訪れる。大気は《月桂樹とレモンの香り》にみちている(訳注 プーシキンの詩『石の客』より)。深い闇の中で突然、牢獄の鉄の扉が開き、当の老大審問官が燈明を片手にゆっくり牢獄に入ってくる。彼は一人きりで、入ったあとただちに扉はしめられる。・・・・

ここで切ります。

ついに、キリストともう一人の主役である大審問官の登場です。


プーシキンの詩『石の客』は、アレクサンドル・ダルゴムイシスキーによって、ロシア語でオペラ化されています。内容は「ヨーロッパ各地に残るドンファン伝説を土台にしたプーシキンの韻文を基に作られており、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」と同じ題材です。ダルゴムイシスキーはプーシキンのテキストを一字一句変更することなく音楽化し、ラウラの2つの歌など一部除いて、全編に渡り、朗唱様式をはりめぐらせています。」とのこと。


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