2017年9月15日金曜日

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「でも、警告や指示に不足はなかったはずだというのは、どういう意味です?」

「アリョーシャ」がたずねました。

「そこが老審問官のぜひとも言わねばならぬ肝心の点でもあるわけさ。『聡明な恐ろしい悪魔が、自滅と虚無の悪魔が』と老審問官は言葉をつづけたのだ。『偉大な悪魔が、かつて荒野でお前と問答を交わしたことがあったな。福音書には、悪魔がお前を《試みよう》としたかのように伝えられているが(訳注 マタイによる福音書第四章)、本当にそうだろうか? そして、悪魔が三つの問いという形でお前に告げ、お前が拒否し、福音書の中で《試み》とよばれているあの言葉よりも、いっそう真実なことを何かしら言いえたたろうか? 実際のところ、もしこの地上でかつて真の衝撃的な奇蹟が成就されたことがあるとすれば、それはあの日、つまりあの三つの試みの行われた日にほかならない。あの三つの問いの出現こそ、まさしく奇蹟が存しているからだ。・・・・

ここで切ります。

ここで老審問官は「悪魔」を「偉大な」と言っており、「福音書」の中の記述を必ずしも事実であるとは考えていないように思えます。

常識的にはキリストは光輝く善であり、「悪魔」はその反対に位置するものですが、老審問官は別の位置に立ってこの両者を眺めているかのようです。

『聡明な恐ろしい悪魔が、自滅と虚無の悪魔が』という表現には彼が「悪魔」をキリストと同格に扱っていることが垣間見えるように思えます。

「マタイによる福音書第四章」です。

「さて、イエスは御霊によって荒野に導かれた。悪魔に試みられるためである。そして、四十日四十夜、断食をし、そののち空腹になられた。すると試みる者がきて言った、「もしあなたが神の子であるなら、これらの石がパンになるように命じてごらんなさい」。イエスは答えて言われた、「『人はパンだけで生きるものではなく、神の口から出る一つ一つの言で生きるものである』と書いてある」。それから悪魔は、イエスを聖なる都に連れて行き、宮の頂上に立たせて言った、「もしあなたが神の子であるなら、下へ飛びおりてごらんなさい。『神はあなたのために御使たちにお命じになると、あなたの足が石に打ちつけられないように、彼らはあなたを手でささえるであろう』と書いてありますから」。イエスは彼に言われた、「『主なるあなたの神を試みてはならない』とまた書いてある」。次に悪魔は、イエスを非常に高い山に連れて行き、この世のすべての国々とその栄華とを見せて言った、「もしあなたが、ひれ伏してわたしを拝むなら、これらのものを皆あなたにあげましょう」。するとイエスは彼に言われた、「サタンよ、退け。『主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ』と書いてある」。そこで、悪魔はイエスを離れ去り、そして、御使たちがみもとにきて仕えた。さて、イエスはヨハネが捕えられたと聞いて、ガリラヤへ退かれた。そしてナザレを去り、ゼブルンとナフタリとの地方にある海べの町カペナウムに行って住まわれた。これは預言者イザヤによって言われた言が、成就するためである。
「ゼブルンの地、ナフタリの地、海に沿う地方、ヨルダンの向こうの地、異邦人のガリラヤ、暗黒の中に住んでいる民は大いなる光を見、死の地、死の陰に住んでいる人々に、光がのぼった」。この時からイエスは教を宣べはじめて言われた、「悔い改めよ、天国は近づいた」。さて、イエスがガリラヤの海べを歩いておられると、ふたりの兄弟、すなわち、ペテロと呼ばれたシモンとその兄弟アンデレとが、海に網を打っているのをごらんになった。彼らは漁師であった。イエスは彼らに言われた、「わたしについてきなさい。あなたがたを、人間をとる漁師にしてあげよう」。
すると、彼らはすぐに網を捨てて、イエスに従った。そこから進んで行かれると、ほかのふたりの兄弟、すなわち、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネとが、父ゼベダイと一緒に、舟の中で網を繕っているのをごらんになった。そこで彼らをお招きになると、すぐ舟と父とをおいて、イエスに従って行った。イエスはガリラヤの全地を巡り歩いて、諸会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、民の中のあらゆる病気、あらゆるわずらいをおいやしになった。そこで、その評判はシリヤ全地にひろまり、人々があらゆる病にかかっている者、すなわち、いろいろの病気と苦しみとに悩んでいる者、悪霊につかれている者、てんかん、中風の者などをイエスのところに連れてきたので、これらの人々をおいやしになった。こうして、ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ及びヨルダンの向こうから、おびただしい群衆がきてイエスに従った。」

悪魔がキリストに言った三つの「警告や指示」が「マタイによる福音書第四章」に書かれています。

一つ目は「石をパンに変えろ」、二つ目は「飛び降りろ」、三つ目は「ひれ伏せ」ということです。

キリストはそれぞれの「警告や指示」に行動ではなく、つまり、言われたことを実行せずに言葉で答えています。


それにたいして老審問官は「いっそう真実なことを何かしら言いえたたろうか?」と言っていますが、この疑問符の具体的な意味がわかりません。


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