「イワン」の会話の続きからです。
・・・・実際のところ、お前はあのときすでに帝王の剣を受けとることもできたはずだった。なぜお前はあの最後の贈り物をしりぞけたのだ? あの力強い悪魔の第三の忠告を受け入れていれば、お前は人間がこの地上で探し求めているものを、ことごとく叶えてやれたはずなのに。つまり、だれの前にひれ伏すべきか、だれに良心を委ねるか、どうすれば結局すべての人が論議の余地ない共同の親密な蟻塚に統一されるか、といった問題をさ。なぜなら、世界的な統合の欲求こそ、人間たちの第三の、そして最後の苦しみにほかならぬからだ。人類は全体として常に、ぜひとも世界的にまとまろうと志向してきた。偉大な歴史をもつ偉大な民族は数多くあったが、その民族が偉大であればあるほど、よけい不幸になった。なぜなら、人々の統合の世界性という欲求を、他の民族よりずっと強く意識したからだ。チムールとかジンギスカンといった偉大な征服者たちは、全世界の制服を志して、この地上を疾風のように走りぬけたものだが、その彼らにしても、無意識でこそあったけれど、やはり人類の世界的、全体的統合という、まったく同じ偉大な欲求を示したのだ。世界と帝位とを引き受けてこそ、全世界の王国を築き、世界的な平和を与えることができるはずではないか。とにかく、人類の良心を支配し、パンを手中に握る者でなくして、いったいだれが人間を支配できよう。われわれは帝王の剣を受けとったが、受けとった以上、もちろんお前をしりぞけ、彼のあとについたのだ。そう、人間の自由な知恵と、科学と、人肉食という非道の時代が、さらに何世紀かつづくことだろう。なぜなら、われわれの知らぬうちにバベルの塔を築きはじめた以上、彼らはしょせん人肉食で終るだろうからな。だがそのときこそ、けだものがわれわれのところに這いよってきて、われわれの足を舐め、その目から血の涙をふり注ぐのだ。そしてわれわれはけだものにまがらり、杯をふりかざす。その杯には《神秘!》と書かれていることだろう。・・・・
ここで切ります。
「マタイによる福音書第四章」の三つめの問いは次のようなものでした。
「次に悪魔は、イエスを非常に高い山に連れて行き、この世のすべての国々とその栄華とを見せて言った、「もしあなたが、ひれ伏してわたしを拝むなら、これらのものを皆あなたにあげましょう」。するとイエスは彼に言われた、「サタンよ、退け。『主なるあなたの神を拝し、ただ神にのみ仕えよ』と書いてある」。」
そして、「世界的な統合の欲求」、人類の志向していることだと。
チムールとは、「ティムール(ペルシア語: تيمور Tīmūr/Taymūr, 1336年4月8日 - 1405年2月18日)は、中央アジアのモンゴル=テュルク系軍事指導者で、ティムール朝の建国者(在位:1370年4月10日 - 1405年2月18日)。中世アジアを代表する軍事的天才と評価され、中央アジアから西アジアにかけてかつてのモンゴル帝国の半分に匹敵する帝国を建設した。しばしば征服した都市で大規模な破壊と虐殺を行う一方、首都のサマルカンドと故郷のキシュ(現在のシャフリサブス歴史地区)で建設事業を行う二面性を持ち合わせていた。」。
ジンギスカンとは、「チンギス・カン(モンゴル語:Cinggis qagan.svg、キリル文字:Чингис хаан、ラテン文字化:Činggis Qan または Činggis Qa'an、漢字:成吉思汗、1162年5月31日 - 1227年8月25日)は、モンゴル帝国の初代皇帝(在位:1206年 - 1227年)。大小様々な集団に分かれてお互いに抗争していたモンゴルの遊牧民諸部族を一代で統一し、中国北部・中央アジア・イラン・東ヨーロッパなどを次々に征服し、最終的には当時の世界人口の半数以上を統治するに到る人類史上最大規模の世界帝国であるモンゴル帝国の基盤を築き上げた。死後その帝国は百数十年を経て解体されたが、その影響は中央ユーラシアにおいて生き続け、遊牧民の偉大な英雄として賞賛された。特に故国モンゴルにおいては神となり、現在のモンゴル国において国家創建の英雄として称えられている。」
大審問官は、自分たちは帝王の剣を受けとったのですが、人々が「われわれの知らぬうちにバベルの塔を築きはじめた」ので、非道の時代が何世紀か続き、その後にふたたび自分たちのところに泣きついてくるだろうと言うのです。
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