「おい、お前! なんて男だ、いったい・・・・昨日までおくびにも出さずにいて・・・・しかし、どのみち今からでも話はつくんだ。実は折り入って頼みがあるんだが、チェルマーシニャへ寄ってくれんか。お前にとっちゃヴォローヴィヤ駅からちょいと左に入るだけじゃないか。せいぜい十二キロかそこらで、チェルマーシニャだからな」
このヴォローヴィヤ駅というのも架空の駅のようです。
(565)で書いたように、スターラヤ・ルッサ=カラマーゾフの舞台とノヴゴロドはイリメニ湖を挟んだ対岸どおしで、チェルマーシニャはその中間にあるということですので、「イワン」が行こうとしているモスクワと逆方向になりますがイリメニ湖の右か左か、50キロちょっと鉄道で行ったところにヴォローヴィヤ駅があって、「ちょいと左」にチェルマーシニャがあるということですね。
「とんでもない、だめですよ。鉄道まで八十キロもあるのに、モスクワ行きの列車が出るのは晩の七時なんですからね。ぎりぎり間に合うのがやっとなんです」
「明日にすりゃ間に合うよ。でなけりゃあさってか。今日はチェルマーシニャへ寄ってくれ。それで親を安心させられりゃ、安いもんじゃないか! なにしろ急を要する特別の仕事だから、こっちに用さえなけりゃ、とうの昔に俺が自分で飛んで行ってくるところなんだが、あいにく今はそんなことをしてる場合じゃないんでな・・・・実はあそこのベギチョーヴォとジャーシキノの二地区にわたって、荒野に俺の森がある。商人のマースロフ親子がたった八千ルーブルで伐採させろと言ってるんだけれど、つい去年のことひょっこり買手が現れて、一万二千出そうとしたんだよ。それがこの土地の長者じゃないんだが、そこに問題があるわけさ。なにしろ、ここの連中は今や販売ルートを持たんのでな。百万長者のマースロフ親子があこぎな商売をやって、値段なんぞ思いのままにつけちまうから、ここの連中のうちだれ一人として張り合うような真似はできないんだ。ところが先週の木曜に神父のイリインスキーが、ふいに手紙をよこして、ゴルストキンがやってきたと知らせてくれたんだよ。こいつも商人で、俺のよく知っている男だが、取柄といや、この土地の者じゃなく、ポグレーボヴァの人間てことだ。つまり、ここの人間じゃないから、マースロフ親子を恐れないわけさ。なんでも、あの森に一万二千出すと言ってるそうだ、ええと、神父の手紙によると、奴さんはたったあと一週間しか滞在しないどうなんでな。だから、お前が行って、やつと話を取りきめてくれるといいんだが・・・・」
チェルマーシニャのベギチョーヴォとジャーシキノの二地区について、ネットではわかりませんでしたので仮名かもしれません。
ゴルストキンの生まれのポグレーボヴァもわかりません。
「フョードル」はしつこく「イワン」にチェルマーシニャ行きを頼んでいます。
ということは、「グルーシェニカ」が訪ねてくるかもしれないから「イワン」を追い払うというためだけではなかったのですね。
しっかりと商売のことも考えていて、二兎を追っているわけですね。
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