2017年11月23日木曜日

602

わたしは何をしに行こうとしているのか?

わたしに対して何の罪も犯していない、善良な、聡明な、立派な人を殺しに行こうとしている、しかもそれによって彼の妻から幸せを永久に奪い、苦しめ、絶望のどん底に突き落とそうとしているのだ。

わたしはベッドに突っ伏し、顔を枕に埋めたまま、時間のたったのにもまったく気づかなかった。

ふいに友人の中尉がピストルを持って迎えにきた。

「ああ、もう起きていたんなら結構だ。時間だぜ、出かけよう」

このときになってわたしはうろたえだし、途方にくれたが、それでも馬車に乗るため外に出た。

「ここでちょっと待っててくれないか」

わたしは友人に言った。

「急いで行ってくるから。財布を忘れたんだ」

そして一人で家に駆け戻ると、まっすぐアファナーシイの小さな部屋に行った。

「アファナーシイ、僕はゆうべお前の顔を二度も殴った。赦しておくれ」

わたしは言った。

彼はおびえたようにびくりとして、眺めている。

わたしはこれでもまだ足りないのだと気づいて、いきなり肩章をつけた服装のまま、彼の足もとの地べたに額をすりつけ、「赦しておくれ!」と言った。

頭で思うことはできても、それを実行するのは別物と言っていいくらいたいへんなことですが、彼はそこまで一気にやってしまったわけですね。

やはりこれには重大な意味があったのでしょう。

ここにいたって彼はすっかり呆然とした。

「中尉殿、旦那さま、どうしてそんな・・・・わたしごとき者に・・・・」

そして突然、先ほどのわたしと同じように自分も泣きだし、両手で顔を覆って、窓の方に向くと、涙に全身をふるわせた。

わたしは友人のところへ駆け戻り、馬車にとびのると、「やってくれ」と叫んだ。

「見たかい、勝利者を」

わたしは友人に叫んだ。

「ほら、君の前にいるじゃないか!」

あまり嬉しかったので、わたしは声をあげて笑い、道々ずっとしゃべりつづけたが、何を話したのやら、おぼえていない。

友人はわたしを見つめて「いや、君はたいした男だな、これなら軍服の名誉を保てるな」と感嘆した。


ここで切ります。


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