2017年11月26日日曜日

605

わたしたちは家に向った。

わたしの介添人は途中ずっと罵りつづけたが、わたしは接吻を返すばかりだった。

その日のうちにさっそく、同僚たちが話をききつけて、わたしを裁くために集まった。

「軍服の名折れだ。辞表を書かせろ」と言うのだ。

弁護する者も現われた。

「とにかく敵の弾丸には堪えぬいたんだからな」

「それはそうだが、次の弾丸がこわくなったんで、決闘の場で詫びを入れたんだ」

「もし次の弾丸がこわくなったんだとしたら」と弁護側が反論する。

「赦しを乞う前に、まず自分のピストルを発射したにちがいない。ところが彼は装塡したままのピストルを森に投げ棄てたんだからな。違うな、ここには何かほかの特殊な事情があったんだ」

わたしは聞き役だった。

みなを眺めているのが楽しかった。

「ねえ、みんな」

わたしは言った。

「同僚諸君、辞表のことならご心配なく。なぜって、もう出してきたんだよ、今朝、事務室に出してきた。退役許可がおりたら、すぐ修道院に入るよ。辞表を出したのもそのためだからね」

ここではじめて修道院に入るということが、彼の口から出たのですがこれは以前から考えていたことでしょうか、それとも今日の朝方に思い浮かんだのでしょうか。

わたしがこう言ったとたん、みなが一人残らず笑いころげた。

「それなら最初からそう言やいいのに。坊さんを裁くわけにゃいかんからな」

みなは大笑いして、いっかな静まろうとしなかったが、それもまったく嘲笑ではなく、やさしい、楽しげな笑いだった。

いちばん手きびしい弾劾者たちにいたるまで、みながいっぺんでわたしに好意をいたき、そのあと退役許可が出るまでのまる一ヶ月というもの、わたしを両手にかかえて歩かんばかりだった。

「よう、坊さん」と言うのだ。

だれもがやさしい言葉をかけてくれ、思いとどまらせようとしたり、「君は自分をどうしちまう気だ?」などと同情さえしはじめた。

「いや、彼はわれわれ仲間の勇者だよ」という者もいた。

「相手の射撃にびくともしなかったし、自分のピストルで射つこともできたのだ。ところが、前の晩に坊主になる夢を見たってわけさ。だからなんだよ」


ここで切ります。


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