2018年1月19日金曜日

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彼女は機敏に「アリョーシャ」とならんでソファに近々と腰をおろし、手放しに感嘆の色を示して彼を見つめました。

そして本当に彼女は喜んでおり、そう言ったのも嘘ではありませんでした。

目が燃え、唇は笑っていましたが、善良そうな快活な笑いでした。

「アリョーシャ」は彼女の顔にこんな善良な表情を予期してすらいませんでした・・・・つい昨日までほとんど会ったことがなく、恐ろしい女という概念を作りあげていましたし、「カテリーナ」に対する昨日の敵意にみちた悪賢い振舞いにはひどくショックを受けもしましたので、今ふいに彼女の内にまったく思いもかけぬ別の存在を見いだして、実におどろきました。

いかに彼が自分自身の悲しみに打ちのめされていたとはいえ、その目は思わず彼女の上に注意深く注がれました。

こういう微妙な「アリョーシャ」の感情も省略することなく、すべて拾い上げています、ここで省略するのと書くのとは大違いです。

彼女の物腰も昨日からがらりと良いほうに変ったかのようでした。

話し方にも昨日のあの甘たるさがほとんど全然ありませんでしたし、けだるそうな気どった動作もなく、すべてが簡潔で素朴で、動作もすばやく、直線的で、信頼にみちていましたが、それでも彼女は非常に興奮していました。

「ああ、ほんとに今日は何もかも思いどおりになるわ」

彼女はまたしゃべりだしました。

「それにしても、あなたが来てなぜこんなに嬉しいのか、自分でもわからないのよ、アリョーシャ。きいてごらんなさい、あたしわからないから」

「どうして嬉しいか、わからないって?」

「ラキーチン」が苦笑しました。

「前にはどういうわけか、連れてきて連れてきてって、しつこく頼んで、ちゃんと目的があったくせに」

「前には別の目的があったけど、今はなくなってしまったわ、そんな場合じゃなもの。あなた方にご馳走するわね、それがいいわ。あたし今ではいい人間になったのよ、ラキートカ。あんたも坐ったら、ラキートカ、どうして立っているの? あら、もう坐ってるのね? そりゃ、ラキートカが自分のことを忘れるはずがないわ。ねえ、アリョーシャ、あの人は今あたしたちの向い側に坐って、気をわるくしているのよ。それというのも、あなたより先に椅子をすすめなかったからなの。うちのラキートカは、そりゃ怒りっぽいんだから。すぐに気をわるくするのよ」

「グルーシェニカ」は笑いだしました。

「怒らないでね、ラキートカ、今ではあたしいい人間なんだから。それにしても、どうしてそんなに沈んでいるの、アリョーシェチカ、それともあたしがこわい?」

彼女はからかい顔の陽気な笑いをうかべて、アリョーシャの目をのぞきこみました。


この「グルーシェニカ」の心理状態は男にはわからないです。


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