2018年1月21日日曜日

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「さあ、下らんおしゃべりはもうたくさんだ」

「ラキーチン」が叫びました。

「それよりシャンパンでも出しなよ、君には貸しがあるんだぜ、自分でもわかってるくせに!」

「本当、借りがあったわね。あのね、アリョーシャ、あなたを連れてきたら、いっさいのお礼のほかにシャンパンを一本おごるって、この人に約束したのよ。シャンパンをぬいてちょうだい、あたしも飲むわ! フェーニャ、フェーニャ、シャンパンを持ってきて。ミーチャが置いていったあの壜よ、早くしてちょうだい。あたしはけち(二字の上に傍点)だけど、一本振舞うわ、でもあんたにじゃなくってよ、ラキートカ。あんたなんか、きのこみたいな存在だけれど、この人は公爵さまだわ! 今のあたしの心を占めているのはほかのことだけれど、そんなことかまわない、あたしもいっしょに飲むわ、どんちゃん騒ぎがしたいのよ!」

「ラキーチン」は「きのこみたいな存在」だって言われていますがおもしろい比喩ですね。

「ドミートリイ」が「グルーシェニカ」の家にシャンパン一本置いているのはさすがですね。

「グルーシェニカ」も大事なことを待っている最中なのに、シャンパンを飲んで「どんちゃん騒ぎがしたいのよ!」というのは、ある意味さすがです、彼女はまだ「アリョーシャ」の膝の上にいるのでしょうか。

「それにしても、その大切な瞬間とやらって、いったい何のことだい、どんな《知らせ》を待っているの、きいてもいいだろう、それとも秘密かい?」

自分めがけてひっきりなしに飛んでくる侮辱なぞ、気にもとめぬというふりを精いっぱいしながら、ラキーチンが好奇心をまるだしにして、また話を戻しました。

「あら、秘密じゃないわ、あんただって知っているじゃないの」

ふいに「グルーシェニカ」が、「ラキーチン」に顔をふりむけ、相変らず「アリョーシャ」の膝に坐って片手で首を抱いてはいたものの、いくらか身を離しながら言いました。

「将校さんが来るのよ、ラキーチン、あたしの将校さんがやってくるの!」

「来るって話はきいてたけど、こんなに間近にだったのかい?」

「今モークロエにいるわ、あそこから使いをよこすの。自分でそう書いてきたわ。さっき手紙をもらったのよ。だからこうして坐って、使いを待ってるってわけ」

「そうだったのか! なぜモークロエなんぞに?」

「話せば長いわ。それに、あんたの相手はもうたくさん」

「それじゃ今やミーチャは–やれやれ! 彼は知ってるの、それとも知らないのかい?」

「知るわけがないでしょうに! 全然知らないわ! 知ったら、あたしを殺すにちがいないわ! でも今ではあたし、そんなこと全然こわくないの、今ではあの人のナイフもこわくないわ。もう黙ってよ、ラキートカ、あの人のことなんか思いださせないで。あの人は、あたしの心を粉々に砕いたのよ。それに今この瞬間、あたしはそんなこと何一つ考えたくもないの。アリョーシャのことなら考えられるわ。あたし、アリョーシャを眺めてるわ・・・・ねえ、あたしを笑って。陽気になってよ、あたしの愚かさを、あたしの喜びを笑ってちょうだい・・・・あ、笑った、笑った! なんてやさしい目をしているの。あたしね、アリョーシャ、あなたがおとといのことで、あのお嬢さんのことで、あたしに怒っているだろうって、ずっと思っていたのよ。あたしは犬も同然だったわ、そうよ・・・・ただ、あんなことになって、やっぱりよかったわ。いけないことだったけど、あれでよかったのよ」

ふいに「グルーシェニカ」は考えこむように薄笑いをうかべましたが、突然その笑いによって何か冷酷な影がちらとのぞきました。

「ミーチャが言ってたけど、あの女は『鞭でひっぱたく』って叫んだそうね。あのとき、あの女をすっかり怒らせてしまったんだもの。あたしをよびつけて、甘い餌で釣って勝とうと思ったんだわ・・・・そう、ああいう結果になって、よかったのよ」

これは(403)の場面ですが、「グルーシェニカ」が「カテリーナ」の家を出ていった後で、彼女が「あんな女、鞭でひっぱたいてやるといいのよ、断頭台で、刑吏の手で、みんなの見世物にして!」と叫んだことですね、このことはどうやって「グルーシェニカ」の耳に入ったのでしょうか。

それを聞いたのは「カテリーナ」の家にいる「上の叔母」と「アリョーシャ」だけですので、彼が「ドミートリイ」に話したのですね。

そして、「ドミートリイ」が「グルーシェニカ」に伝えたのでしょう。

彼女はまた薄笑いをうかべました。


「でも、あなたが腹を立てただろうと、そればかり心配だったわ・・・・」


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