「これは本音だぞ」
ふいに「ラキーチン」が真顔でおどろいて口をはさみました。
「おい、アリョーシャ、彼女は本当に君を恐れてるぜ、こんな雛っ子をさ」
「そりゃ、あんたにとってこの人が雛っ子にすぎないだけよ、ラキートカ、そういうこと・・・・だって、あんたには良心てものがないもの、そうなのよ! あたしは、あたしは心底からこの人が好きだわ、そうなの! アリョーシャ、あたしは心からあなたを愛しているわ、信じてくれる?」
「おい、よせよ、恥知らずな! アレクセイ、彼女は君に恋を打ち明けてるんだぜ!」
「それがどうしたの、あたし愛しているわ」
「じゃ、将校さんは? モークロエからの嬉しい知らせは?」
「それとこれは別よ」
「女の理屈だとそういうことになるのかね!」
「あたしを怒らせないで、ラキートカ」
「グルーシェニカ」がむきになって言葉尻をとらえました。
「それとこれとは別なのよ。あたしはアリョーシャを別の意味で愛しているんだわ。アリョーシャ、たしかに今まではあたし、あなたに対してずるい考えを持っていたわ。だってあたしは卑劣な女ですもの、気違いみたいな女ですもの。でも、別の瞬間にはあなたを、あたしの良心として見ることがよくあったわ、アリョーシャ。いつも考えるのよ。『こんなふうにしていちゃ、これからはこんな汚れたあたしを軽蔑するにちがいない』って。おととい、あのお嬢さんの家から走って帰ったときも、そう思ったわ。ずっと、以前から、あたしそんなふうに、あなたに目をつけていたのよ、アリョーシャ。ミーチャも知っているわ、あの人には話したことがあるから。ミーチャはちゃんとわかってくれているわ。本当を言うとね、アリョーシャ、時には本当に、あなたを見て、あたし、自分が恥ずかしくなるの、自分の何もかもが恥ずかしくなるのよ・・・・どうしてあなたのことをそんなふうに考えるようになったのか、いつからそうなのか、自分でもわからないし、おぼえていないけれど・・・・」
素直なんでしょうか、自分のことを卑劣で気違いみたいな女ですものと卑下して、こんなふうにしていては自分が恥ずかしくなると言っています。
ここまで、自分の心を率直に語られると相手は何も言えなくなってしまいますね。
フェーニャが入ってきて、テーブルにお盆を置きました。
お盆には栓をぬいた壜と、シャンパンを充したグラスが三つのっていました。
「シャンパンが来たぞ!」
「ラキーチン」が叫びました。
「君は興奮のあまり、どうかしてるんだよ、アグラフェーナ・アレクサンドロヴナ。一杯やれば、踊りたくなるさ。えい、こんなことも、ろくにできないんだな」
シャンパンを眺めながら、彼は付け加えました。
「婆さんが台所でついだもんだから持ってきたのは栓をぬいた壜だぜ、しかも生温かいときた。ま、これでもいいさ」
0 件のコメント:
コメントを投稿