「まるで彼女が君を救ったみたいだな!」
「ラキーチン」が憎々しげに笑いだしました。
「ところが、彼女は君を一呑みにしちまうつもりだったんだぜ、そのことを知ってるのか?」
ここで使われている「一呑み」は少し後でも出てきますが実際はどういう意味なんでしょう、幅広い意味がありそうですので他の翻訳も参考にしたいものです。
「やめてよ、ラキートカ!」
ふいに「グルーシェニカ」が跳ね起きました。
「二人とも黙ってちょうだい。今こそあたし何もかも言うわ。アリョーシャ、黙って。だって、あなたのそんな言葉をきくと、あたし恥ずかしくなるもの。それというのも、あたしはいい人間じゃなく、よこしまな女だからよ、あたしはそういう人間。ラキートカ、あんたも黙って。なぜって、あんたは嘘を言ってるからよ。そりゃ、この人を一呑みにしちまおうという卑しい考えはあったけれど、今あんたの言ってることは嘘だわ。今は全然違うもの・・・・あんたの声なんぞこれ以上まるきりききたくないわ、ラキートカ!」
「グルーシェニカ」は「一呑み」にしようと思っていたけど今は違う、だから「ラキーチン」のいうことは嘘だと言っているのでしょうが、妙な理屈があったものですね。
これらすべてを「グルーシェニカ」は、異常なほど興奮して言い放ちました。
「まったく二人とも気違いだな!」
びっくりして二人を見くらべながら、「ラキーチン」がつぶやきました。
「まるで気違いだ。精神病院へ舞いこんだみたいだぜ。二人ともしおらしくなっちまって、今にも泣きだしそうじゃないか!」
「あたし泣きだすわ、本当に泣きだしそう!」
「グルーシェニカ」が口走りました。
「この人はあたしを、姉とよんでくれたのよ、あたしこのことは一生忘れない! ただ、いいこと、ラキーチン、あたしはよこしまな女ではあるけど、これでもやはり葱をあげたことがあるのよ」
「葱って、何のことだい? ふん、畜生、本当に気がふれちまったな!」
人生にめったに起らぬくらい強烈な魂を揺り動かしうることがすべて、たまたま二人の心に生じたのだと思い当ってもいいはずなのに、「ラキーチン」は二人の感激ぶりにおどろき、すっかり気をわるくしました。
普通はこのタイミングでは出てこないと思いますが、ここで語り手が出てきて、今起きていることは「人生にめったに起らぬくらい強烈な魂を揺り動かしうることがすべて、たまたま二人の心に生じた」とまで言っています。
だが、自分に関係のあることなら何でもいたって敏感に理解できる「ラキーチン」も、ある程度は若くて経験が浅いせいもあり、ある程度はたいそうなエゴイズムのせいもあって、身近な人間の感情や感覚の理解にかけてはきわめて雑でした。
ここにきて語り手は「ラキーチン」の無神経に見える態度を、若さと経験のなさということで少し弁護しているのですね。
「あのね、アリョーシャ」
突然「グルーシェニカ」が、「アリョーシャ」の方に向き直りながら、神経質な笑い声を立てました。
0 件のコメント:
コメントを投稿