「もちろん断わりゃせんさ」
「ラキーチン」は明らかにうろたえたものの、強がって羞恥を隠しながら、太い声で言いました。
「これでお互いにきわめて好都合ってわけだ。この世にばかが存在するのは、利口な人間を儲けさせるためだからな」
「ラキーチン」は「グルーシェニカ」のことを「ばか」とまで言ってしまいましたね。
「これで黙るのよ、ラキートカ、これからあたしの話すことはすべて、あんたにきかせるためじゃないんだから。ここの隅に坐って、黙ってなさいよ。あんたはあたしたちを愛してないんだもの、黙ってるがいいわ」
「どうして君らを愛するいわれがあるんだい?」
もはや敵意を隠そうともせず、「ラキーチン」が食ってかかりました。
二十五ルーブル紙幣はポケットに突っ込んだが、「アリョーシャ」の手前まったく恥かしく思いました。
「アリョーシャ」に知られぬよう、あとで報酬をもらうことを期待していたので、今や羞恥のあまり腹を立てていました。
今の今まで彼は、どんなに侮辱されても、あまり「グルーシェニカ」に逆らわぬほうが得策と考えていました。
というのも、彼女が自分に対して何らかの権力を持っていることが明らかだったからです。
しかし今やその彼も怒ってしまいました。
「愛するには何か理由があるものさ、ところが君ら二人が何をしてくれたって言うんだい?」
「理由がなくたって愛しなさいよ、アリョーシャの愛はそうよ」
「そいつが君を愛しているなんて、どこでわかる? 君が得意顔にひけらかすような、そんな態度でも示したのかい?」
「グルーシェニカ」は部屋の真ん中に立ち、むきになって話していました。
その声にヒステリックなひびきが感じられました。
「ラキーチン」が二十五ルーブルを受け取ったのも驚きますが、「アリョーシャ」に知られぬようにあとで報酬をもらうことを期待していたとは卑劣な行為で、こんなことを内緒にしておくなんてことはもはや友人とさえ言えないですね。
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