二 セッター
というわけで《馬をとばさなければ》ならなかったのですが、やはり馬車代が一カペイカもありませんでした。
いや、つまり、二十カペイカ銀貨が二枚あるだけで、それが永年にわたるこれまでの甘い生活の名残りのすべてでした。
しかし、家にはもうだいぶ前から動かなくなっている古い銀時計がころがっていました。
彼はそれをひっつかむと、市場の店で寝泊りしているユダヤ人の時計屋のところへ持っていきました。
時計屋は六ルーブルで買ってくれました。
「こいつも予想外だったな!」
「ミーチャ」は感激して叫び(彼はいまだに感激しつづけていた)、六ルーブルをつかんで、家に駆け戻りました。
家に帰ると、家主から三ルーブル借りて、不足分を埋めました。
家主の一家はなけなしの金であるにもかかわらず、いつも快く貸してくれました。
それほど彼を好いていたのです。
その理由は次に書いているように彼は正直なのです、嘘をついたり、謀りごとをしたりしないのです。
「ドミートリイ」は感激の状態にあったため、自分の運命がいよいよ決せられるのだと打ち明け、たった今「サムソーノフ」に提案してきたばかりの《計画》を、もちろん大急ぎで、ほとんどそっくり話してきかせたうえ、さらにサムソーノフの結論だの将来の希望だのをいろいろ語りました。
家主の一家はこれまでにも彼の大部分の秘密を打ち明けられていましたので、まったく傲慢なところのない旦那として、身内(二字の上に傍点)の人間のように見ていました。
こうして九ルーブルを作ると、「ミーチャ」はヴォローヴィヤ駅までの駅馬車を迎えにやりました。
チェルマーシニャへの距離は、(569)で書かれていましたが、このヴォローヴィヤ駅から左に十二キロですね。
九ルーブル=九千円ですからそれに手持ちの四十カペイカを合わせて九千四百円です。
(571)で「イワン」の行程として「今いる場所(スターラヤ・ルッサ=カラマーゾフの舞台)から馬車で八十キロ走り、鉄道の最寄駅に到着し、そこから50キロちょっとでヴォローヴィヤ駅、それから馬車で「せいぜい十二キロかそこら」でチェルマーシニャに着き、そこで用事を済ませて、神父に馬車でヴォローヴィヤ駅まで送ってもらい、モスクワまで行くということになります。」と書きました。
なぜかこれは間違っているような気がして自信がないのですが、これで行くとチェルマーシニャまでは142キロもあることになります。
ネットで馬車の速度を調べましたら、通常移動で6km以内、中速移動で10km以内、高速移動で20km以内となっており、全力でも20kmほどしかスピードは出ませんとのことでした。
移動できるのは一日ではせいぜい100kmくらいのようです。
だとすると、チェルマーシニャまでは142キロというのが間違いかもしれません。
ちなみに東京23区のタクシー代は10キロ3,450円、100キロで33,850円だそうです。
しかし、このような形で、『ある事件の前日、正午には、ミーチャは文なしだったのであり、金を作るために彼は時計を売り、家主に三ルーブル借りた。これにはすべて証人がある』という事実が記憶され、チェックされたのです。
この事実を前もって指摘しておきます。
何のためにそんなことをするか、いずれ明らかになるでしょう。
ところで、本文には関係ないのですが、私がせっせと書きうつしているこの「カラマーゾフの兄弟」(原卓也訳、新章文庫版)がKindle版で出ていました。
今頃気が着いたのは遅いのかもしれませんが、これをダウンロードしてコピーすれば、毎日の作業が楽になると一瞬思いましたが、いや、キーボードを自分なりのスピードで打つことにいくらかの意味があるかもしれないと思い直しこのまま続行することにしました。
ですからこれからも当分、ですます調に直しながら機会的に打ち続けるだけです。
ちなみに、今進行中の「カラマーゾフの兄弟」(中)巻のKindle版は840円でしたのでダウンロードしました。
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