2018年3月31日土曜日

730

「アンドレイ」が馬に鞭をあてました。

鈴が鳴りはじめました。

「お達者でね、ピョートル・イリイチ! 最後の涙を君に贈るよ!」

「酔払ってるわけでもないのに、なんてばかげたことばかりわめいているんだ!」

「ペルホーチン」がそのうしろ姿に叫びました。

彼は店の者が「ミーチャ」を欺して、勘定をごまかしそうな予感がしたため、あとに残って、残りの食料品や酒を荷馬車に(やはり三頭立てだった)積みこむところを監督しようかという気を起しかけましたが、ふいに自分自身に腹が立ち、唾を吐きすてると、行きつけの飲屋へ球を撞きに行きました。

「ペルホーチン」のような正義感の強い性分の人は役人にぴったりだと思いますが、反対に役人だからそういう性格になったのかもしれませんね。

「いいやつじゃあるけど、ばか者だな・・・・」

それは、「ペルホーチン」にもあてはまるのではないでしょうか。

みちみち彼はひとりつぶやきました。

「グルーシェニカの《昔の恋人》とかいう将校の話は、俺もきいたことがある。だが、そいつがやってきたとなると、これは・・・・ああ、あのピストルがな! えい、畜生、べつにあいつの伯父さんてわけじゃあるまいし! 知っちゃいないよ! それに何事も起りゃせんだろう。どなり合うくらいで、それ以上のことは起るまい。酔払って、喧嘩して、喧嘩のあと仲直りすることだろう。実行型じゃあるまい? それにしても《身を引く》だの、《自己を処刑する》だのって、いったい何のことだ-いや、何事も起りゃせんさ! あんな台詞は飲屋で酔払って、千回もわめき散らしてたしな。今は酔っていなかった。《精神的に酔払ってる》か-卑劣な男はこういう台詞が好きなもんだ。俺があいつの伯父さんてわけじゃなし。しかし、あれは喧嘩してきたに決ってる、顔じゅう血だらけだもの。相手はだれだろう? 飲屋に行きゃわかるだろう。ハンカチも血染めだったし・・・・ふう、畜生、うちの床にそのまま置いていきやがった・・・・汚ならしい!」


彼は典型的な小市民的精神の持ち主です、ところで小市民とは何でしょう、プチブルのことを言うらしいのですが、ウィキペディアによると「小ブルジョワ(仏: Petite bourgeoisie,プチ・ブルジョワ)とは、マルクス主義の用語。僅かな生産手段を私有する者を指す。自作農や商店主の他、知識を切り売りする弁護士や医師などの専門家、才能や技能を切り売りする芸術家や俳優も含む。小市民とも書く。」とのこと、ということは彼が小市民的精神の持ち主というのは適切な言い方ではないですが、階級的には間違っているとも言えないですね、とにかく作者が描写する「ペルホーチン」という人物について典型としてはうまく名付けることはできなくても現代でもすぐそこにいるような気がします。


0 件のコメント:

コメントを投稿