「やめなさいよ、ミーチャ、その人の言うとおりかもしれないわ。それでなくても、ずいぶん負けたんだし」
「グルーシェニカ」も声に妙なひびきを含ませて言いました。
この一連の状況の描写の中において、この「声に妙なひびきを含ませて言いました」というなにげない表現、これは普通ではなかなかできないような驚くべき表現ではないでしょうか。
ポーランド人は二人とも、ひどく侮辱された顔つきで、ふいに席を立ちました。
「冗談でしょうな、あんた?」
きびしく「カルガーノフ」をにらみつけながら、小柄な男が言いました。
「よくもそんな真似ができるもんだね、あんた!」
「ヴルブレフスキー」も「カルガーノフ」に啖呵を切りました。
「やめなさい、どなるのはやめてちょうだい!」
「グルーシェニカ」が叫びました。
「まったく、七面鳥みたいに!」
「ミーチャ」はみなを順番に眺めていました。
しかし、突然、「グルーシェニカ」の表情の何かに心を打たれ、そのとたん何かまったく新しいものが彼の頭にもひらめきました-奇妙な新しい思いつきでした!
この感嘆符は、地の文についていますので、著者にとっては相当思い入れのある「奇妙な新しい思いつき」のはずです。
「パーニ・アグリッピーナ!」
激怒に顔を真っ赤にして、小柄なポーランド人が言いだしかけたとき、突然「ミーチャ」がそばへ歩みよって、肩をたたきました。
「ポーランドの貴族さん、ちょっと話があるんだ」
「何の用ですか、あんた?」
「あっちの部屋へ、向うの部屋へ行きましょう。ちょっとあんたにいい話があるんだ、耳よりの話がね。あんたもきっと満足しますよ」
小柄なポーランド人はびっくりして、不安そうに「ミーチャ」を眺めました。
それでも、すぐに同意しましたが、「ヴルブレフスキー」もいっしょに行くというのが絶対条件でした。
「ボディガードもかい? かまいませんよ、あの人も必要なんだ。むしろぜひ来てもらいたいな!」
「ミーチャ」は叫びました。
「さ、行こう!」
「どこへ行くの?」
「グルーシェニカ」が心配そうにたずねました。
「すぐに戻ってくるよ」
「ミーチャ」は答えました。
その顔に、ある種の大胆さが、ある種の思いがけぬ生気がかがやきはじめていました。
一時間前、この部屋に入ってきたときとはまるで違う顔でした。
彼はポーランド人たちを右手の小部屋に案内しました。
そこは、娘たちのコーラスが支度したり、食卓の用意をしたりしている広間ではなく、トランクやボストンバッグが積み上げられ、それぞれに更紗の枕を山のように積んだ大きなベッドが二つ置かれている寝室でした。
片隅にある小さな薄板のサイドテーブルの上に、燈明がともっていました。
小柄なポーランド人と「ミーチャ」はそのサイドテーブルの前に向い合って坐り、大男の「ヴルブレフスキー」は両手をうしろに組んでそのわきに立ちました。
ポーランド人たちはきびしい顔で、しかし露骨に好奇心を示して見つめていました。
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