2018年4月30日月曜日

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「カルガーノフ」は怒りだしてしまいました。

「まるきり新味のない歌じゃないか」

彼はきこえよがしに言い放ちました。

「だれがこんな歌を作るんだ! いっそ鉄道員かユダヤ人でも通りかかって、娘たちにたずねるほうがいいようなもんさ。あの連中ならみんなを陥落させるだろうからな」

ここで「鉄道員」と「ユダヤ人」が挙げられていますが、彼らはこの時代ではどういう評判だったのでしょうか、「ポーランド人」や「ユダヤ人」が差別の対象になっていたのは耳にしたことがありますが、「鉄道員」はどうだったのでしょうか。

そして、ほとんど侮辱されたような気になり、その場で、わびしくなったと言いすてて、ソファに坐ると、突然うとうとしはじめたのでした。

美しい顔がいくらか青ざめ、ソファのクッションの上にのけぞっていました。

「見てごらんなさい、とってもかわいいじゃないの」

「ミーチャ」を彼のそばへ引っ張ってゆきながら、「グルーシェニカ」が言いました。

「さっきこの坊やの髪をとかしてあげたのよ。まるで亜麻みたいな、濃い髪だわ・・・・」

「亜麻みたいな」とはどんな髪のことでしょう、「亜麻」は食用や園芸種や油絵の「アマニ油」の他に繊維としての「亜麻」があり、茎の繊維は衣類などリネン製品となるとのこと、繊維としては「亜麻は、日本工業規格 (JIS) 上は、「麻」と表記される(麻繊維参照)。麻(大麻の繊維:ヘンプ)と誤解されることがあるが、まったく異なる植物種である。一般に大麻よりも柔らかい繊維とされる。亜麻は、通気性・吸湿性に優れて肌触りが良いことから織られて高級な衣類などになる。麻は縄や麻袋など耐久性の必要な用途にも使い、衣類としても庶民的な繊維とみなされるが、上布のように上質な織物にも使われる。古くは亜麻の糸をライン (Line) といい、この細くて丈夫な亜麻糸からの連想で「線・筋」を意味する英単語になった。フランス語ではランと発音され、ランジェリーはアマの高級繊維を使用した女性の下着に由来する。また繊維の強靭性から劣質の繊維はテントや帆布として利用され、大航海時代の帆布はアマの織布である。」とのことです。

そして感動したように身をかがめて、青年の額にキスしました。

「カルガーノフ」はとたんに目を開けて、彼女を見ると、中腰になり、「マクシーモフ」がどこにいるかを心配そうな顔でたずねました。

「お目当てはあんな人ってわけね」

「グルーシェニカ」は笑いだしました。

「しばらくあたしのお相手をなさいよ。ミーチャ、この人の大事なマクシーモフをよんできてあげて」

ところが「マクシーモフ」は、娘たちのそばを離れようとせず、時々リキュールを手酌でつぎに走るくらいなのに、チョコレートのほうは、コーヒー・カップに二杯も飲んでいることがわかりました。

チョコレートドリンクの飲み過ぎはよくないように思いますが。

顔がすっかり赤くなり、鼻は赤紫色で、目は気持よさそうにうるんでいました。

彼は駆けよってくると、今から《あるメロディにのせて》木靴踊りをやるつもりだと告げました。

「マクシーモフ」のキャラクターはどうも私には想像できませんが、「木靴踊り」はどういう意図でやるのでしょうか。

「実は子供の時分、こうした上流社会の上品な踊りを全部教わったものでした・・・・」

「木靴踊り」は「上流社会の上品な踊り」なのですね、娘たちの下品な踊りを連れの「カルガーノフ」が嫌がっているので自分が上品な踊りを踊って見せようとするのでしょうか、それともただ披露したかっただけでしょうか。

「じゃ、行ってらっしゃい。ミーチャ、いっしょに行ってらっしゃいよ。あたしはここからその人の踊りを見物するわ」

「いえ、僕も、僕も見に行きます」

しばらく相手をしてほしいという「グルーシェニカ」の申し出を、いたって無邪気にはねつけながら、「カルガーノフ」が叫びました。

そこでみんなが見に行きました。

「マクシーモフ」は本当に踊りをやりましたが、「ミーチャ」を除いて、ほとんどだれの心にもさほどの感嘆をよび起こしませんでした。

馭者の「アンドレイ」に対してもそうでしたが、普通の人は心に留めないようなことでも「ドミートリイ」には相手に対する思いやりがありますね。

踊りといっても要するに、靴底を上に向けて両足を左右に蹴りあげ、跳躍するたびに「マクシーモフ」が掌で靴底をたたくというだけのことでした。

「カルガーノフ」にはまるきり気に入りませんでしたが、「ミーチャ」は踊り手に接吻してやったほどでした。

「やあ、ご苦労さん、疲れただろう。何でこっちを眺めてるんだい。キャンディでもほしいのかい、え? それとも葉巻?」

「巻煙草を一本」

「酒は要らないの?」


「わたしはこちらでリキュールを、はい・・・・チョコレート・キャンディはございませんので?」


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