これらすべてに時間がとられるので、たまたま前日の朝、俸給を取りに町へ来ていた分署長の「マヴリーキイ・マヴリーキエウィチ・シメルツォフ」を、自分たちより二時間ほど先にモークロエに派遣することにしました。
分署長の「マヴリーキイ・マヴリーキエウィチ・シメルツォフ」は「ドミートリイ」と懇意の「マヴリーキイ・マヴリーキチ」ですね。
「シメルツォフ」は、モークロエについても決して騒ぎを起さず、当局が乗りこむまで《犯人》から目を離さぬようにし、同時に証人や村の警吏たちを集めておくようにという指令を受けました。
(769)で「ドミートリイ」が「しかし、あのバッジをつけた連中は、あの連中は何のためにいるのだろう?」と思ったのは、「シメルツォフ」が集めた「村の警吏」たちなのですね、(769)の「二人、どこかの百姓たち」とは「証人」として集めたのでしょう。
「シメルツォフ」はそのとおり行動して、お忍びで通し、古い知人である「トリフォン」にだけ、仕事の秘密をある程度打ち明けました。
「ミーチャ」が回廊の暗がりで自分を探していた宿の主人に出会い、その際「トリフォン」の顔や話し方にふいに何か変化が生じたことに気づいたのは、まさしくこの時刻に当っていました。
(762)の「トリフォンはなんとなく暗い、気がかりそうな様子に見えましたし、どうやら彼を探しに来たらしいのです。」のとろこですね。
というわけで、「ミーチャ」も、ほかのだれも、自分たちが監視されていることなど、まったく知らずにいました。
ピストルのケースはずっと以前に「トリフォン」が運びだし、目立たぬ場所に隠していました。
そしてもう朝の四時すぎ、ほとんど夜明け近くになってやっと、郡署長や検事、予審調査官などのお偉方が、二台の箱馬車と、二台のトロイカで到着しました。
郡会医は、その朝、死体の解剖を行う考えで、「フョードル」の家に残りましたが、何よりも彼の興味をひいたのは、病気の召使「スメルジャコフ」の容態にほかなりませんでした。
「二昼夜もぶっつづけにくりかえされる、こんなはげしい、こんな長い癲癇の発作なんて、めったにお目にかかれませんからね。これも研究の対象ですよ」
出発してゆく仲間たちに彼は興奮した様子で口走ったので、仲間たちは笑いながら、この新発見を祝いました。
その際、検事と予審調査官は、「スメルジャコフ」は朝までもつまいと医者がきわめて断定的な口調で付け加えたのを、非常によく記憶していました。
これは、作者の意図が何であるか、非常にわかりにくい部分です、普通に読むと「スメルジャコフ」が犯罪の容疑者から外れるということを印象付けているのではないかと思われるのですが、彼を犯人だとすれば、ありえないほどの癲癇の発作はそれ自体犯行を隠すための仮病ではないかとも思えます。
さて、長い、しかし必要と思われる説明も終りましたので、前編で中断していた物語の個所に戻ったというわけです。
「前編で中断していた物語の個所」とは第八編の「八 悪夢」の最後、予審調査官が「ドミートリイ」にカラマーゾフ殺害事件の容疑者と申し渡し、「彼はふしぎそうな眼差しでみなを見まわしていました・・・・」のところです。
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