2018年6月12日火曜日

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もちろん調書が作られていましたが、記録している間に、検事が突然、まるでだしぬけに新しい考えに突き当ったかのように、言いました。

「それじゃ、その合図をスメルジャコフも知っていて、しかもあなたがお父上の死に対するいっさいの容疑を根本的に否定なさるということになれば、約束の合図をして、お父上にドアを開けさせたうえ、さらに・・・・殺人を行なったのは、その男じゃないでしょうかね?」

なんで「その男」なんて言うのでしょうね、「スメルジャコフ」のことを。

「スメルジャコフ」は癲癇の発作で寝込んでいたはずですね、しかし、(559)で「イワン」は彼に対して「明日から三日間、癲癇の仮病を使うつもりだな?」と言っており「スメルジャコフ」はそれに答えて「かりにわたしがそんな芸当までしかねないとしても、つまり、経験のある人間にとっちゃいたって簡単なことですから、仮病を使うかもしれないとしても、その場合だって、わたしの生命を死から救うためにそんな手段を用いるのは、しごく当然の権利でございますからね。なにしろわたしが病気で寝ているとあっちゃ、たとえアグラフェーナさまがお父上のところへいらしたにせよ、お兄さまだって『なぜ知らせなかった』と病人を糾明するわけにもまいりますまい。ご自分が恥をおかきになるだけですから」という発言をしていますから本当に癲癇の発作で寝込んでいたのかも疑わしくなります、つまり「スメルジャコフ」は仮病を使うかもしれないと自分で言っているわけです、しかし実際には(714)で「グリゴーリイ」が起きだした時には癲癇に倒れた「スメルジャコフ」は、隣の小部屋で身動きもせずに寝ていたと書かれていますし、(781)で「マルファ」は隣の小部屋に意識不明のまま寝ている「スメルジャコフ」の恐ろしい癲癇の悲鳴で目覚め、彼の小部屋にとんでいき、「真っ暗で、病人が恐ろしいいびきを立ててもがきはじめる気配」を聞いています、さらに(782)では頭に怪我をして庭で倒れていた「グリゴーリイ」を女二人は「フォマー」とで離れにかつぎ込みましたが、そのとき灯をつけて見ると、「スメルジャコフ」はいっこうに発作の鎮まる様子もなく、自分の小部屋でもがいており、目をひきつらせ、唇から泡が流れていたと書かれています、また(784)の「フョードル」殺害後ですが、郡会医は「スメルジャコフ」を見て「二昼夜もぶっつづけにくりかえされる、こんなはげしい、こんな長い癲癇の発作なんて、めったにお目にかかれませんからね。これも研究の対象ですよ」と言っています、そして検事と予審調査官は、「スメルジャコフ」は朝までもつまいと医者がきわめて断定的な口調で付け加えたのを、非常によく記憶していましたと書かれていました、つまり「スメルジャコフ」が寝込んでいたことを目撃したのは、郡会医や検事、予審調査を除いても「グリゴーリイ」、「マルファ」、「マリヤ・コンドラーチエヴナ」、「フォマー」の四人もいます。

結局、「スメルジャコフ」については、本当に病気なのか仮病なのかわかりませんね、わからないように書かれています。

「ミーチャ」は深い嘲りと、同時におそろしい憎しみの眼差しで、検事を見つめました。

あまり永いこと無言のままにらみつけていたので、検事は目をしばたたきはじめたほどでした。

「また狐をつかまえましたね!」

やがて「ミーチャ」が言いました。

「悪党の尻尾をふんづかまえたってわけだ、へ、へ! あなたの肚の内は見通しですよ、検事さん! あなたはこう思ったんでしょう。僕がすぐに跳ね起きて、あなたが耳打ちしてくれた説にとびついて、『そうだ、スメルジャコフの仕業だ、あいつが人殺しだ!』と声を限りに叫びたてるだろうとね。そう考えたと白状なさいよ。白状なさい、そうすりゃ、つづきを話しますから」

しかし、検事は白状しませんでした。

黙って、待っていました。

「どんだ誤解だ。僕はスメルジャコフだぞなんて叫びませんよ!」

「ミーチャ」が言いました。

「まるきり疑ってみないんですか?」

「じゃ、あなた方は疑ってるんですか?」

「あの男も疑ってみました」

またここで「スメルジャコフ」のことを「あの男」と言っていますね。

「ミーチャ」は目を床に落しました。

「冗談はさておき」

彼は暗い顔で言いました。

「実はね。いちばん最初、さっきそのカーテンの奥からあなた方の前へとびだしてきた、ほとんどあのときに、僕の頭に『スメルジャコフだ!』という考えがひらめいたんです。ここでテーブルの前に坐って、あの血に関しては僕は無実だと叫んでいた間も、内心ではずっと『スメルジャコフだ!』と思っていました。スメルジャコフが心から離れずにいたんですよ。そして最後に今、ふいにやはり『スメルジャコフだ』と思ったんです、ほんの一瞬だけ。同時にすぐ『違う、スメルジャコフじゃない!』と思いました。これはあいつの仕業じゃありませんよ、みなさん!」

「ドミートリイ」が心の中で「スメルジャコフ」が犯人だなんて思っていたことは意外でした、というか、彼の心の中の重要なことはすべてそのときどきに書かれていると思っていたのですが、そうではなく今になって告白していることに違和感を感じました、最後では否定していますが、しかし自分が犯人でないのですから、実際には誰が犯人だろうかと考えるのは当然ですね。

「そうすると、だれかほかの人物でも疑っておられるんですか?」

「ネリュードフ」が慎重にたずねました。

「わかりません、だれなのか、何者なのか、神の仕業か、悪魔の仕業なのか、でも・・・・スメルジャコフじゃない!」


「ミーチャ」が断定的にきっぱり言いました。


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