そのため、くりかえしたずねられてから、言葉少なくぶっきらぼうに言いました。
「で、自殺しようと決心したんです。この上生きのびている理由があるだろうか。ひとりでにこんな疑問がうかんできました。まぎれもない、かつての男が現われたんです。かつて彼女に恥をかかせた男ではあっても、五年後に正式の結婚によって侮辱を償おうと、愛情をいだいて駆けつけたんです。僕にとって何もかもフイになったことがわかりましたよ・・・・しかも背後には恥辱が、あの血が、グリゴーリイの血がある・・・・生きてゆく理由があるだろうか? そこで担保に入れたピストルを請けだしに行ったんです。装填して、夜明けまでにはこの額に弾丸をぶちこむつもりで・・・・」
「それで深夜の大酒盛りですか?」
「深夜の大酒盛りです。えい、畜生、早く終ってくださいよ、みなさん。僕は必ず自殺しようと思いました、すぐこの先の村はずれでね。ひそかに朝の五時ごろと決め、ポケットに遺書を用意しました。ペルホーチンのところで、ピストルを装填したときに書いたんです。ほら、これがその遺書ですよ、読んでごらんなさい。べつにあなた方のために話してるわけじゃないんだけど!」
ふいに彼はさげすむように付け加えました。
彼はチョッキのポケットから紙片をテーブルの上に放りだしました。
この紙片のことは(723)に出てきました、「ドミートリイ」は「弾丸をこめ、麻屑をつめて押えたあと、「紙を一枚ください」と言って「テーブルからペンをとり、手早くその紙に二行だけ書くと、紙を四つにたたんで、チョッキのポケットにしまいました」という部分です、そしてその内容は(724)に書かれています、『全生涯に対して自己を処刑する。わが一生を処罰する!』というものです。
捜査官たちは好奇の色を見せて読み終ると、例によって事件に結びつけました。
「ペルホーチン氏の家に入るときにさえ、いまだに手を洗うことは思いつかなかったんですね。してみると、怪しまれるのを恐れなかったんですか?」
「怪しまれるですって? 怪しまれようと、怪しまれまいと、同じことじゃありませんか、どうせ僕がここへ駆けつけて、五時にピストル自殺をしちまえば、どうする暇もないんだから。だって、親父の事件さえなけりゃ、あなた方は何も知らなかっただろうし、ここへ来るはずもなかったでしょうからね。そう、これは悪魔の仕業だ、親父は悪魔が殺したんです、あなた方だって悪魔のおかげでこんなに早く知ったんですよ! どうしてこんなに早くここへ駆けつけられたんです? ふしぎだ、夢みたいな話ですよ!」
「ペルホーチン氏の話だと、あなたはあの人の家に入ったとき、両手に・・・・血まみれの両手に・・・・お金を・・・・それも大金を・・・・百ルーブル札の束を持っておられたそうですね、それはあそこに奉公している少年も見ているんですよ!」
「そう、みなさん、おぼえてますよ、そうでした」
「ここで一つの疑問にぶつかるわけです。お教えねがえませんでしょうかね」
「ネリュードフ」はやけに猫撫で声で切りだしました。
「お家に寄らなかったことは、時間の計算によっても事実から明らかだというのに、いったいどこから突然そんな大金を手に入れたのです?」
これはまさに重要な質問ですね、今まで真実を話してきた「ドミートリイ」がどう答えるかたいへん興味の持たれるところです。
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