「それでしたら、お手数でも、ここへどうやっていらしたか、ここへついてから何をなさったかをお話しいただきましょうか?」
「ああ、それなら、ここのだれにでもきいてください。もっとも僕が話してもいいけど」
「ドミートリイ」は「恥辱」の件についても「三千ルーブル」の金額のことについても、話すことを拒否しましたので、ヘソを曲げたのだと思いましたが、そうではなかったようです、尋問者側は少しきつい言い方になってはいるように思いますが、彼はまだまだ形の上では協力的であるようです。
彼は話しました。
しかし、その話を引用するのはもうやめましょう。
駆け足の、そっけない話し方でした。
恋の歓喜については全然語りませんでした。
それでも、自殺の決意が《いくつかの新しい事実のために》消失したことは、語りました。
理由には触れず、詳細にわたらずに話したのです。
「ドミートリイ」が「理由には触れ」なかったのは、ポーランド人の名誉のためということもあるでしょう、そう言えば彼らのことが出てきませんがどうしたのでしょう。
それに捜査官たちも今回はあまり彼の心を乱しませんでした。
彼らにとっても今やいちばんのポイントがそこにあるのでないことは、明らかだったからです。
「そのお話はいずれみな確かめましょう。どうせ証人の尋問の際に、またこの話に戻りますから。もちろんそれはあなたの立会いのもとに行われます」
「ネリュードフ」が尋問をしめくくりました。
「ところで今度はおねがいがあるのですが、今身につけておられる品物を全部、このテーブルの上に出してくださいませんか、何よりもお金は現在お持ちになっているだけ全部」
「金を、みなさん? いいでしょう、それが必要であることはわかります。どうしてもっと早く関心を示さなかったのか、おどろいているくらいですよ。もっとも、僕はどこへも逃げる気はないし、こうして目の前に坐ってますからね。さ、これが僕の有金です。数えて預かってください、これで全額でしょうよ」
彼はあっちこっちのポケットから小銭にいたるまで全額取りだし、チョッキの脇ポケットからも二十カペイカ銀貨を二枚つまみだしました。
お金を数えてみると、八百三十六ルーブル四十カペイカあることがわかりました。
「これで全部ですか?」
「全部です」
「あなたはたった今、証言の際に、プロトニコフの店に三百ルーブル置いてきたと言われましたね。あと、ペルホーチンに十ルーブル返して、馭者に二十ルーブル、ここで二百ルーブル負けて、それから・・・・」
「それから・・・・」以下が知りたいところですが。
「ネリュードフ」はすっかり数えあげました。
「ミーチャ」もすすんで協力しました。
一カペイカにいたるまで思い起し、計算に含めました。
「ネリュードフ」がすばやく合計を出しました。
「すると、この八百ルーブルを入れて、最初お持ちだったのは全部で約千五百ルーブルということになりますね」
この「約千五百ルーブル」というのは、積算してみると、(726)で「ペルホーチン」が手助けして値切った①三百ルーブル、(724)で「ドミートリイ」は②十ルーブル札を一枚つかんで、「ペルホーチン」にさしだし、(740)で馭者の「アンドレイ」にチップとして③五ルーブル、(751)で「マクシーモフ」に④十ルーブル貸して、(752)で賭けで⑤二百ルーブル負けています、これだとあと140ルーブルくらい足りませんので、どこかで他に使ったことが書かれているかもしれませんが、これ以上調べるのを諦めます、また、遡りますが、当初彼が持ってきた金額については、(690)で「二十カペイカ銀貨が二枚あるだけで、それが永年にわたるこれまでの甘い生活の名残りのすべてでした」とあるように、彼はチェルマーシニャに行く前には四十カペイカしか持っていませんでした、それで馬車代を捻出するために古い銀時計を市場の店で寝泊りしているユダヤ人の時計屋に六ルーブルで買ってもらい、さらに家主から三ルーブル借りました、つまり手持ちの金額が9ルーブルと40カペイカで、その中から(697)で書かれているように「泊り賃と、蠟燭代と、迷惑をかけた分として、ポケットから小銭で五十カペイカ」払っており、往復の馬車代がいくらかわかりませんがそれも払ったことになります、当初手持ちの残額がいくらだったかはわかりませんが、いずれにせよたいした金額は残っていないでしょう。
「そういうことですね」
「ミーチャ」がぶっきらぼうに言いました。
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