2018年6月23日土曜日

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「まだどこか探したいんじゃないですか、恥ずかしくさえなけりゃ?」

「いえ、さしあたり必要ありません」

「どうなんです、僕はこうして裸のままでいるんですか?」

彼は憤然として付け加えました。

「ええ、今のところやむをえませんね・・・・とりあえずここにお坐りください、ベッドの毛布をとって、くるまっていてもかまいませんよ、わたしは・・・・わたしはこれをみんな整理しますから」

品物は全部、立会人に示され、検査の調書が作成されて、やがて「ネリュードフ」が出て行き、そのあとから衣服も運び去られました。

検事も出て行きました。

「ミーチャ」のわきに残ったのは百姓たちだけで、彼から目を離さずに黙って突っ立っていました。

「ミーチャ」は毛布にくるまりました。

寒くなってきました。

むきだしの足がにょっきりのぞいているのですが、隠そうとしても、どうしても毛布で覆うことができませんでした。

「ネリュードフ」はなぜかいつまでも、《拷問のように永い間》帰ってきませんでした。

『人を犬ころなみに思ってやがる』

「ミーチャ」は歯噛みをしました。

『あのやくざな検事も出て行きやがった。きっと軽蔑の念からだろう。裸の俺を見ているのが、けがらわしくなったんだ』

「ミーチャ」はそれでもやはり、どこか向うで衣服を調べたら、持ち帰るだろうと思っていました。

ところが、「ネリュードフ」が突然、まるきり別の服をかかえた百姓を従えて戻ってくるにおよんで、彼の憤りはその極に達しました。

「さ、服をどうぞ」

見るからに自分の奔走の成功にたいそう満足した様子で、予審調査官が狎れなれしい口をききました。

「これはカルガーノフさんが、この興味深い出来事のために寄付してくださったのです。きれいなシャツも同様にね。運のいいことに、ちょうどトランクに一式入っていたんですよ。下着と靴下はご自分のを使ってもかまいません」

もし「カルガーノフ」の提供がなければどうしたのでしょうか、本当に運が良かったんじゃないでしょうか。

「ドミートリイ」は恐ろしくかっとなりました。

「ひとの服なんぞいやなこった!」

すごい剣幕で彼はどなりました。

「僕のを返してください!」

「それはできません」

「僕のを返してください、カルガーノフなんぞ消えて失せるがいい、あいつの服も、あいつ自身もくそくらえだ!」

永いこと彼を説得し、それでもどうにか気持を鎮まらせました。

彼の服は血に汚れているので、《証拠品の中に含め》ねばならないし、今や自分たちもこのまま彼にあの服を着せておくことは《権利すら持っていない・・・・なにぶん事件がどう決着するかわからないので》と、教えさとされました。

「ミーチャ」も最後には、なんとか納得しました。

納得するのも早い「ドミートリイ」ですね。

彼は暗い顔で黙り込み、急いで服を着にかかりました。

服を着ながら、こいつは自分の古ぼけた服より贅沢だから、《使わせてもらう》のは気がすすまないと、感想を洩らしただけでした。

そのほか、「屈辱的なくらい窮屈だな。こんなものを着て道化の役を演じろというんですか・・・・あなた方を楽しませるために!」とも言いました。

彼はまた、それはおおげさすぎる、「カルガーノフ氏」は背丈こそ彼より高いが、それもほんの少しだから、ズボンが長目なだけだと、たしなめられました。

しかし、フロックは本当に肩が窮屈であることがわかりました。

「畜生、ボタンがなかなかかかりゃしない」

また「ミーチャ」が文句を言いました。


「おねがいだから、今すぐ僕の伝言をカルガーノフ君に伝えてくれませんか。服なんぞ頼んだのは僕じゃないし、僕自身は道化の仮装をさせられたんだって」


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