「いや、いや、はずさなくていいです!」
突然われに返り、自分自身に腹を立てて、「ミーチャ」は猛然とどなりました。
「はずさなくていいですよ、そんな必要はないんです・・・・畜生・・・・みなさん、あなた方は僕の心をすっかり穢してくれましたね! かりに本当に親父を殺したとしても、この僕がしらを切ったり、のらくら言い逃れをしたり、嘘をついたり、隠れたりするなどと、本気であなた方は思ってるんですか? とんでもない、ドミートリイ・カラマーゾフはそんな人間じゃない。そんなことに堪えられるような男じゃありませんよ。かりに僕が罪を犯したとしたら、誓ってもいいけれど、あなた方がここへ乗りこむのや、最初に考えていたように日の出なんぞを、おめおめと待たずに、もっと早く、夜明けを迎えぬうちに自殺していたでしょうよ! 僕は今自分の気持に照らしてそう感ずるんです。僕は二十年かかっても学びえないほどたくさんのことを、この呪わしい一夜で知りましたよ!・・・・もし本当に僕が父親殺しだったとしたら、こんなふうにしていられますかね、この一夜にしても、今この瞬間あなた方の前に坐っているときでも、こんな態度でいられるもんでしょうかね、こんなふうに話したり、こんなふうに動いたり、あなた方や世間をこんなふうに眺めていられますかね、もののはずみでグリゴーリイを手にかけてしまったことでさえ、夜どおし僕を落ちつかせてくれなかったというのに。それも恐怖からじゃない、そう、あなた方の罰がこわいためだけじゃないんです! 恥辱ですよ! それなのにあなた方は、あなた方みたいな、何も見えず何一つ信じない嘲笑屋に向って、盲のもぐら同然の皮肉屋に向って、この上さらに僕の新しい卑劣な行為を、新しい恥辱を打ち明けさせ、話させようと言うんですか、たとえそれが僕をあなた方の追求から救うかもしれぬとしてもですよ? それなら、いっそ懲役に行くほうがましだ! 親父の部屋のドアを開けて、その戸口から入った人間、そいつが親父を殺し、金を奪ったんです。そいつがだれか、僕も途方にくれて苦しんでいるんですが、しかしそれはドミートリイ・カラマーゾフじゃない。それだけは知っておいてください。僕があなた方に言えるのはそれだけです。もうたくさんだ、しつこくきかないでください・・・・流刑にしようと、死刑にしようとかまわないけど、これ以上僕を苛立たせるのはやめてもらいましょう。僕はもう口をつぐんだんです。勝手に証人をよべばいいでしょう!」
「ミーチャ」は、もはやこれからは絶対にしゃべるまいと決心したかのように、このだしぬけのモノローグを言い放ちました。
「ドミートリイ」は「この上さらに僕の新しい卑劣な行為を、新しい恥辱を打ち明けさせ、話させようと言うんですか、たとえそれが僕をあなた方の追求から救うかもしれぬとしてもですよ? それなら、いっそ懲役に行くほうがましだ!」と言いました、たとえ、この物語が今後、彼の不利なように展開して行くとしても、このモノローグによっても、何度も何度も言うように彼が犯人などというのはありえないと思います。
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