2018年6月28日木曜日

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「そんなばかな。ナンセンスだ! 枕の下だなんて、全然知らなかったんです。それに、ひょっとしたら、まるきり枕の下でなんぞなかったかもしれないし・・・・枕の下だなんて、僕はあてずっぽうを言ったんですよ・・・・スメルジャコフはどう言ってます? どこに隠してあったか、あいつにきいてみましたか? スメルジャコフは何と言ってるんです? そこが大事ですよ・・・・僕はわざとでたらめを言ったんです・・・・よく考えもせずに、枕の下にあるなんて、でたらめを言ったんだ、それをあなたは今になって・・・・そうでしょう、つい口がすべって、でたらめを言うことはあるでしょうが。知っていたのはスメルジャコフ一人です、スメルジャコフだけなんだ、ほかにはだれもいません! あいつは隠し場所を僕にも明かさなかったんですからね! しかし、これはあいつだ、あいつの仕業だ。疑いもなくあいつが殺したんです。今こそ僕にははっきりわかりましたよ」

これは完全にでたらめを言った「ドミートリイ」が悪いですね、しかし彼の言うように「スメルジャコフ」に聞けばわかることだと思いますが、彼が「枕の下」と言えばアウトです、また彼が本当のことを言うという保証もありません。

ますます熱狂し、とりとめのないことをくりかえしたり、むきになって、息まいたりしながら、「ミーチャ」は叫びました。

「わかってください、そしてあいつを早く、一刻も早く逮捕してください・・・・あいつは、僕が逃げ去ったあと、グリゴーリイが意識不明で倒れている間に、殺したんです、今こそはっきりしたぞ・・・・あいつが合図をしたんで、親父はドアを開けたんです・・・・なぜって、合図を知っていたのはあいつだけだし、合図がなけりゃ親父はだれにも戸を開けやしないでしょうからね・・・・」

ここで「合図がなけりゃ親父はだれにも戸を開けやしないでしょうからね・・・・」と言っています、「ドミートリイ」の言うことを信じれば、彼は合図をし、それを聞いて「フョードル」が窓から身を乗り出しました、しかしドアは開けませんでした、「グルーシェニカ」の気配があればドアは開けるでしょう、いずれにせよ「フョードル」はドアを開ける態勢にあったということは確かです。

「しかし、またあなたは例の状況を忘れておいでですね」

この検事は一体何を言っているんでしょう、「例の状況」とはドアがすでに開け放されていた状況のことで、このことについてはまだ意見が分かれているのですが。

相変らず感情を表に出さないで、しかしすでに勝ち誇ったような顔で、検事が指摘しました。

「ドアがすでに開け放されていたとすれば、合図をする必要もなかったわけですよ、それもまだあなたがいるとき、あなたが庭におられるときに開いていたとすれば・・・・」

すでに開け放されていたとすれば、それは合図を聞いた「フョードル」が中から開けたのであり、「ドミートリイ」が中に入って殺害し、三千ルーブルを盗んだ後で庭の方へ逃げ去ったことになります、つまり「ドミートリイ」がその時ドアが閉まっていたと嘘をついているということを前提にしての推論ですね。

「ドアね、ドアか」

「ミーチャ」はつぶやき、言葉もなく検事を見つめました。

彼はふたたび力なく椅子に腰をおろしました。

みなが沈黙しました。

「どうか、ドアか! こいつは化物だな! 神さまが僕に反対なさってるんだ!」

もはやまったく考えもなく目の前を眺めたまま、彼は叫びました。

「いいですか」

検事が重々しく言い放ちました。

「今度はご自分で考えてごらんなさい、ドミートリイ・フョードロウィチ。一方には、ドアが開いていて、そこからあなたが逃げだしたという、あなたをわれわれをもがっくりさせる証言がある。その一方にはまた、あなた自身の供述によれば、つい三時間前にたった十ルーブルの金を作るために、ピストルを担保に入れたほどだというのに、忽然としてあなたの手の中に現われた大金の出所に関して、理解に苦しむ、頑な、強情と言ってもよいくらいの沈黙がある、というわけです!」

これらのすべてをお考えのうえ、ご自分で決めてください。われわれは何を信じ、何を結論とすればいいんです? われわれがあなたの魂の高潔な叫びを信ずることのできぬ、《冷酷な皮肉屋で、嘲笑好きな手合い》だなどと腹を立てないでください・・・・むしろ反対に、われわれの立場も理解していただきたいものですね・・・・」

「ミーチャ」は想像もできぬほど動揺していました。

顔が蒼白になりました。

「いいでしょう! 突然、彼は叫びました。

「あなた方に僕の秘密を打ち明けましょう、金も出どころを明かします! あとになってあなた方のことも、自分自身も責めないでいいように、恥辱を打ち明けます・・・・」

「それから、ぜひ信じてください、ドミートリイ・フョードロウィチ」

なにやら感動したような嬉しげな声で、「ネリュードフ」がすかさず言いました。

「まさに今のような瞬間にあなたが誠実な完全な告白をしてくだされば、それは後日、あなたの運命をずっと軽くするのに影響を及ぼすはずですし、そのほかにも・・・・」

しかし、検事がテーブルの下で軽くつついたので、相手は潮時よく言葉を切ることができました。

「そのほかにも・・・・」の続きは何なんでしょうか、想像もつきません。


もっとも、「ミーチャ」は彼の言葉など、きいてもいませんでした。


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