2018年7月15日日曜日

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「ネリュードフ」は調書に記録はしたものの、この不快な出来事に際して、きわめて賞賛すべき事務的才能と、事を処理する能力を発揮しました。

「ミーチャ」をきびしくたしなめたあと、彼自身もただちに、この事件のロマンスの面に関するそれ以後の質問を打ち切り、すぐに本質的な問題に移ったのです。

本質的な話の中で、尋問側の並々ならぬ好奇心をよび起すような、ポーランド人たちの証言が一つあらわれました。

ほかでもない、「ミーチャ」が例の小部屋で「ムッシャローウィチ」を買収しようとして、三千ルーブルの手切れ金を、七百ルーブルは即金で、あとの二千三百ルーブルは《明日の朝、町で》払うことを提案し、その際、このモークロエにはさしあたりそれだけの持合せがなく、金は町にあると述べて、名誉にかけて誓った、というのです。

このことは(754)に出ていますが、「ドミートリイ」ははじめは五百ルーブル手渡すと言っており、そのときに「金はこうしよう。五百ルーブルは今すぐ馬車代と手付金として君にあげるし、あとの二千五百は明日、町で払う。名誉にかけて誓うよ。金はできるとも。地の底からでも取りだしてみせるさ!」と言いました、たしかに「名誉にかけて」誓うと言っていましたね、しかしここでは、「金はできるとも。地の底からでも取りだしてみせるさ!」というふうに言っています、つまり家に帰ってもお金はなくなんとか都合しますということです、その後ポーランド人が不審そうな様子をしているのを感じて、七百に釣り上げた時には「町の家においてあるんでね」と言っていますが、これは嘘っぽく、最初の方が本当なのではないでしょうか。

「ミーチャ」はかっとなったあまり、明日必ず町で払うなどど言ったおぼえはないと注意しかけましたが、「ヴルブレフスキー」がこの証言を裏付けましたし、それに当の「ミーチャ」もちょっと考えた末に、おそらくポーランド人たちの言うとおりだろう、あのときは興奮していたから、本当にそれくらい言いかねなかったと、眉をくもらせて同意しました。

この「明日必ず町で払うなどど言ったおぼえはない」という発言は、「ドミートリイ」が家にお金がないので自分はその時そんなことを言うはずはないという思い込みがそのように言わせたのではないでしょうか、実際には言ってはいますが。

検事はこの証言に夢中でとびつきました。

「ミーチャ」の手に入った三千ルーブルの半分なり一部なりが、町のどこかか、あるいはこのモークロエのどこかに隠されて本当に残っているかもしれぬことが、今後の審理のために明らかにされたわけであり(また、のち本当にそういう結論が出された)、したがって、「ミーチャ」の手もとに全部で八百ルーブルしか発見されなかったという、審理上いささか頭の痛い事態-今まで唯一の、それもかなり取るに足らぬものとはいえ、やはり「ミーチャ」に有利なある程度の証拠だった事態も、こうして解明されてきました。

今や彼に有利なこの唯一の証拠も崩れかけていました。

千五百ルーブルしかなかったと断言していながら、一方ではポーランド人に名誉をかけて固く約束したとすれば、翌日ポーランド人に与える残りの二千三百ルーブルを、いったいどこで手に入れるつもりだったのかという、検事の質問に対して、「ミーチャ」は、翌日《ポーランド野郎》に提供しようと思ったのは金ではなく、チェルマーシニャの領地の正式な権利書、つまり、「サムソーノフ」や「ホフラコワ夫人」に提案した例の権利書だったと、びくともせずに答えました。

ここで「びくともせずに答え」たということは「ドミートリイ」が自信を持ってそう思っていたということだと思いますが。

検事はこの《他愛ない言い逃れ》に苦笑したほどでした。

「それじゃ、相手が現金二千三百ルーブルの代りに、その《権利》を受けとることに同意すると思っているんですか?」

「必ず同意しますとも」

「ミーチャ」はむきになって荒々しく答えました。


「冗談じゃない、そうなりゃ二千どころか、四千でも六千でも荒稼ぎできるでしょうからね。こいつのことだから、すぐに仲間の弁護士だの、ポーランド人だの、ユダヤ人だのをかき集めて、三千ルーブルはおろか、チェルマーシニャ村をそっくり、親父からふんだくったことでしょうよ」


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