2018年7月16日月曜日

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言うまでもなく、「ムッシャローウィチ」の証言は、きわめて詳細にわたって調書に記録されました。

これで二人のポーランド人は放免されました。

カードのいかさまの事実には、ほとんど言及されませんでした。

「ネリュードフ」はそれでなくとも彼らには十二分に感謝していましたので、下らぬことで迷惑をかけたくありませんでしたし、ましてそれは酔ったあげくの勝負事のつまらぬ喧嘩にすぎないのだから、なおさらのことでした。

カード賭博のいかさまはきびしく処罰されるような印象があるのですが、この時代この場所ではおおらかな取り扱いで終わっていますね。

この夜はほかにも、ばか騒ぎや醜態がいろいろとあったのです・・・・というわけで例の二百ルーブルの金は、そのままポーランド人のポケットにおさまりました。

そのあと、「マクシーモフ老人」がよびだされました。

おどおどしながら姿をあらわすと、彼はちょこまかした足どりで歩みよりました。

取り乱した、ひどく悲しげな様子でした。

これまでずっと彼は階下で「グルーシェニカ」に寄りそって、黙念と坐ったまま、のちに署長の「マカーロフ」が話したところによると、『ときおり彼女に向ってべそをかきそうになり、青い縞のハンカチで目をぬぐって』いたといいます。

そのため彼女の方が彼をなだめ、慰めてやる始末でした。

これではどうしようもありませんね。

老人はすぐに、『貧しいために十ルーブルもの金を』「ミーチャ」に借りて申しわけなかった、きっと返すつもりだと、涙ながらに告白した・・・・「ミーチャ」から借金したとき、彼の手にしていた金をいちばん近くで見ることができたのだから、いったいどれくらいあったか気づかなかったかという、「ネリュードフ」の端的な質問に、「マクシーモフ」はきわめて断定的に、金は「二万ルーブルです」と答えました。

なんだかめちゃくちゃですね、老人だからいくぶんぼけているのでしょうか、これでは役に立ちません。

「あなたはこれまでに、どこかで二万ルーブルの金を見たことがあるんですか?」

苦笑して「ネリュードフ」がたずねました。

「もちろん、見たことはございますとも。ただ二万ルーブルじゃなく、七千ルーブルでございますが、家内がわたしの持ち村を担保にしてしまったときのことでございました。家内はわたしに遠くから拝ませてくれただけで、わたしにひけらかしたんでございますよ。とても分厚い札束で、全部百ルーブル札でした。ドミートリイ・フョードロウィチのも百ルーブル札ばかりで・・・・」

彼はすぐに放免されました。

これ以上、質問しても無駄だと思ったのでしょう。

いよいよ、「グルーシェニカ」の番になりました。


捜査官たちは、どうやら、彼女の登場が「ミーチャ」に与えるかもしれぬ印象を案じているらしく、「ネリュードフ」が訓戒めかしく二言三言つぶやきかけましたが、「ミーチャ」はそれに答えて無言のままうなずき、その動作で《混乱は起さない》ことを知らせました。


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