「どうぞ」
「ネリュードフ」が許可しました。
「アグラフェーナ・アレクサンドロヴナ」
「ミーチャ」は椅子から腰を浮かしました。
「神さまと僕を信じておくれ。ゆうべ殺された親父の血に関しては、僕は無実なんだ!」
私は彼の言うように父親殺しの犯人ではないと確信しています、そうでなければこの小説自体がおかしなものになりますから。
こう言うと、「ミーチャ」はまた椅子に坐りました。
「グルーシェニカ」は中腰になり、聖像にうやうやしく十字を切りました。
「主よ、汝に栄光あれ!」
真心のこもった熱烈な声で彼女は言うと、まだ席に坐らぬうちに「ネリュードフ」をかえりみて、言い添えました。
「今この人の言ったことを、信じてくださいまし! あたしはその人をよく知っています。ときおり口をすべらせることはありますけど、それはみなさんを笑わせるためか、強情っぱりのためで、良心に反するような場合でしたら、決して人を欺したりしません。率直に本当のことを言う人です、そこを信じてあげてくださいませ!」
この発言は端的に要所を押さえていますし、「グルーシェニカ」はすばらしい人ですね。
「ありがとう、アグラフェーナ・アレクサンドロヴナ、心に張りができたよ!」
「ミーチャ」がふるえる声で答えました。
ゆうべの所持金についての質問に対して、彼女は、いくらあったかは知らないが、彼はゆうべ何度も人々に三千ルーブル持ってきたと話していたのは耳にした、と述べました。
また、金の出所に関して、「カテリーナ・イワーノヴナ」から《盗んだ》と、自分にだけは打ち明けてくれましたが、それに対して自分は、盗んだわけではない、明日にでもそのお金を返さなければいけないと答えた旨、説明しました。
さらに、「カテリーナ・イワーノヴナ」から盗んだというのは、ゆうべの金のことか、それともひと月前にここで使った三千ルーブルのことを言ったのかという、検事の執拗な質問に、彼女は、彼の言ったのはひと月前の金のことであり、自分はそう解釈した、と申し立てました。
「グルーシェニカ」はやっと放免されましたが、その際「ネリュードフ」は彼女に、今すぐにでも町へ帰って差支えないし、もし自分として何かお役に立てるなら、たとえば馬車の手配なり、付添いの要望なりあれば、自分は喜んで・・・・と、熱心に申し出ました。
「本当にありがとうございます」
「グルーシェニカ」は彼におじぎをしました。
「あたしは、あのお年寄りの地主さんと帰ります。お送りしますから。でも、もしお許しがいただけますなら、あなた方がこちらでドミートリイ・フョードロウィチの問題を決定なさるのを、もうしばらく下で待っております」
彼女は出て行きました。
「ミーチャ」は冷静で、すっかり元気を取り戻したような様子さえ見せていましたが、それもほんのしばらくの間だけでした。
時がたつにつれてますます、何か奇妙な肉体的な虚弱感が彼をとらえました。
疲労で目が閉じそうでした。
証人たちの尋問もやっと終りました。
調書の最終的な整理にとりかかりました。
「ミーチャ」は立ちあがり、自分の席からカーテンに近い隅へ移り、敷物をかけた主人の大きなトランクの上に身を横たえ、とたんに眠りに落ちました。
(832)で「そう、少し急ぎませんとね。ただちに証人の尋問に移らねばなりません。これはどうしてもあなたの立会いのもとに行う必要があるんです。というのは・・・・」という発言に対して、「あとでわかるのかもしれませんが、この『というのは・・・・』の後は何でしょうか、想像もつきません。」と書きましたが、何だったんでしょうか。
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