第四部
第十編 少年たち
一 コーリャ・クラソートキン
やっと、下巻です。
しかも、この下巻は少しですが一番分厚いのです。
私は何度か通して読んでいたにもかかわらず、この新潮文庫では上巻と下巻の2巻だというふうにしばらく思い込んでいましたので予定が狂ってしまいました。
このような勘違いはあまりにも間抜けなことで情けないのですが、あとしばらく先を急がず続けたいと思います。
さっそく本文に入ります。
十一月初めでした。
零下十一度の寒さがこの町を襲い、それとともに地面も木立ちも一面の氷に覆われました。
その夜、凍りついた大地にぱさつく雪が少し降り、《身を切るような乾いた風》がそれを巻きあげ、この町のわびしい通りや、特に市の立つ広場を吹きぬけました。
翌朝はどんより曇っていましたが、雪はやみました。
広場からさほど遠くない、プロトニコフの店の近くに、官吏の未亡人「クラソートキナ」のこぢんまりした、内も外もいたって小ぎれいな家があります。
当の十二等官「クラソートキン」はもうだいぶ以前、ほとんど十四年近く前に死んでいましたが、いまだにたいそう器量のよい三十そこそこの未亡人は健在で、この小ぎれいな家に《自分の財産》で暮していました。
やさしいながら、かなり明るい性格の彼女は、正直な、小心な生活を送っていました。
夫とはほんの一年足らず暮しただけで、息子を生むとすぐ、十八の若さで夫に先立たれました。
それ以来、夫の死後ずっと彼女は宝物の「コーリャ」少年の教育に自己のすべてを捧げ、この十四年間わが子を夢中で愛しつづけてきたものの、ほとんど毎日のように、わが子が病気をしはせぬか、風邪をひくのではないか、いたずらが過ぎはせぬか、椅子にはいあがって落ちはしないか、などと気をもみ、恐怖に死ぬ思いでしたので、得た喜びよりは、もちろん苦しみのほうが比較にならぬほど多かったのです。
(442)で少年たちの投石の喧嘩のことが出てきました、その時は「スムーロフ」「クラソートキン」「イリューシャ」の名前が出ていましたが、「イリューシャ」にペンナイフで刺された出血したのが「クラソートキン」、つまり「コーリャ・クラソートキン」ですね。
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