2018年8月20日月曜日

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「コーリャ」の長い会話の続きです。

「・・・・なんという悲劇だろう、と僕は思いました。問いつめて、事情をききだしたところ、あの子は何かのきっかけで、あなたの亡くなったお父さん(そのころはまだ生きてらっしゃいましたけど)の召使いスメルジャコフと親しくなって、あの男がばかなあの子に愚劣ないたずらを、つまり残酷な卑劣ないたずらを教えこんだんです。パンの柔らかいところにピンを埋めこんで、そこらの番犬に、つまり空腹のあまり噛みもしないで丸呑みにしてしまうような犬にそれを投げてやって、どうなるかを見物しようというわけです。そこで二人してそういうパン片をこしらえて、それを今これほど問題になっているむく犬のジューチカに投げてやったんです。これはどこかの番犬ですけど、ろくに食べ物ももらえないもんだから、一日じゅうむやみに吠えてるような犬でしてね(犬のああいう愚かしい吠え声をお好きですか、カラマーゾフさん? 僕はとても我慢できませんよ)。犬はすぐにとびついて、丸呑みにするなり、悲鳴をあげて、ぐるぐるまわりだすと、やにわに走りだし、走りながらきゃんきゃん悲鳴をあげて、そのまま消えてしまったんです。これはイリューシャ自身の言葉ですけどね。あの子は僕に打ち明けると、おいおい泣きながら、僕に抱きついて、身をふるわせていました。『走りながら、きゃんきゃん悲鳴をあげるんだ』と、そればかりくりかえしてましたっけ。その光景がショックだったんですね。そう、良心の呵責だってことはわかりました。そこで僕もまじめに対応したんです。何よりも、これまでのこともあるのであの子を鍛えてやりたかったもんですから、実を言うと、ちょっと芝居をして、実際は全然それほどじゃなかったかもしれないのに、すごく怒ったふりをしたんです。僕は言ってやりました。『なんて卑劣なことをしたんだ。君は卑劣漢だぞ。もちろん僕は言いふらしたりしないけど、当分君とは絶交だ。この問題はよく考えて、今後君との付合いをつづけるか、それとも卑劣漢として永久に君を見棄てるかは、いずれスムーロフを通じて知らせるよ』って。スムーロフというのは、今僕といっしょに来た子で、日ごろから僕に心服しているんです。この言葉があの子にはひどいショックだったんですね。正直に言って、そのときに僕は、ことによるとあまりきびしすぎたかもしれないと感じたんですけど、仕方がありません。それがあのときの僕の考えだったんですから。一日たってから僕はスムーロフをあの子のところへやって、今度あの子とは《口をきかない》と伝えさせました。つまり、僕らの間では、二人の友達が絶交するとき、こういう言い方をするんですよ。僕としてはほんの四、五日あの子をこらしめて、後悔を見とどけてから、また手をさしのべようというのが、ひそかな考えだったんです。それが僕の固い決意でした。ところが、どう思います。スムーロフから言伝てをきくと、突然あの子は目をぎらぎらさせて、『クラソートキンに伝えてくれ、こうなったら僕はどの犬にも全部ピンを入れたパンをまいてやるから。どの犬にもだぞ!』と、どなったんです。『ああ、すっかりわがままになっちまったな。しごいてやらなきゃ』と僕は思って、完全な軽蔑を示すようになり、会うたびに顔をそむけたり、皮肉な笑いをうかべたりしました。・・・・

まだ、「コーリャ」の会話が終わりませんので、ここで切ります。


それにしても「スメルジャコフ」はもういい大人ですが、こういうことを小さい子供に教えていいわけがありません、いや、これはもういたずらなどと言うことではなく、犯罪ですね、彼自身の精神状態に問題があるのでしょう、現在でもスーパーのパンに針を混入という事件が少なからずあるのですが、これらはストレス解消のためと言われています。


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