犬は嬉しさのあまり狂ったように跳ね起き、先に立ってとびだしました。
「コーリャ」は玄関の土間を突っ切ると、《ちびっ子たち》のドアを開けました。
二人とも先ほどと同じようにテーブルの前に坐っていましたが、もう本は読んでおらず、むきになって何事か議論してました。
この子供たちは興味をひく人生のさまざまな問題について、しょっちゅう議論し合っているのですが、その際いつも勝ちを制するのは姉である「ナースチャ」のほうでした。
「コースチャ」は姉に同意できないと、ほとんどそのたびに「コーリャ」のところへ上訴しにきましたし、「コーリャ」が結論を下せば、もはやそれは双方にとって絶対的な裁決になりました。
今度の《ちびっ子たち》の議論は多少「コーリャ」の興味をひいたので、彼は少しきいてみようと戸口に立ちどまりました。
子供たちは彼がきいているのを見て、いっそう熱心に自分の議論をつづけました。
「あたし絶対に、絶対に信じないわ」
「ナースチャ」がむきになって言いました。
「赤ちゃんは、お産婆さんが畑のキャベツの畝の間で見つけてくるんだなんて。今はもう冬で、畝なんか全然ないんだもの、お産婆さんだってカテリーナに女の赤ちゃんを持ってこられるはずがないわ」
「ひゅー!」
「コーリャ」はひそかに口笛を鳴らしました。
「でなけりゃ、こうかもしれないわ。赤ちゃんはどこかから運ばれてくるんだけど、でもお嫁に行った人のところにだけなのよ」
「コースチャ」はまじまじと「ナースチャ」を見つめ、思慮深げにききながら、思案していました。
「ナースチャ、姉さんってばかだね」
やがて彼はむきにもならずに、しっかりした口調で言いました。
「だってさ、カテリーナはお嫁に行ってないのに、どうして赤ちゃんができるのさ?」
「ナースチャ」はひどくいきりたちました。
「あんたなんか、何もわからないのよ」
苛立たしそうに彼女はさえぎりました。
「もしかすると、旦那さんがいたんだけど、今は牢屋に入っているのかもしれないわ。だから赤ちゃんを産んだんじゃないの」
「ほんとに旦那さんが牢屋に入ってるの?」
実際的な「コースチャ」が重々しくたずねました。
「それとも、こうかしら」
「ナースチャ」は最初の自分の仮説をすっかり放棄し、忘れ去って、勢いこんでさえぎりました。
「あの人に旦那さんはいないわ、それはあんたの言うとおりよ。でも、お嫁に行きたいと思って、お嫁に行くことばかり考えて、いつもそのことばかり考えつづけていたもんだから、とうとう旦那さんの代りに赤ちゃんができたんだわ」
「そうにきまってるさ」
すっかり言い負かされた「コースチャ」が同意しました。
「はじめっからそう言ってくれないんだもの、僕わからなかったんだ」
この辺の、《ちびっ子たち》つまり「ナースチャ」と「コースチャ」の議論の内容はどうでもいいと思いますが、ここではこの二人が「興味をひく人生のさまざまな問題について、しょっちゅう議論し合っている」というのが、何か今後の展開と結びつくことがあるのでしょうか。
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