「コーリャ」はまた鞄に手を突っこみ、ほんとうに本物の火薬が少し入っている小さなガラス壜を取りだしました。
(849)で「この鉄道のくだりは、幻の第二部で書かかれる予定であったとも言われる鉄道爆破による皇帝暗殺のことが頭に浮かびます。」と書いたのですが、ここではさらに火薬のことも話題になっていますので、なおさらそう思います。
小さな紙包みの中にはいくつかばら弾も入っていました。
彼はガラス壜の栓をあけて、掌の上に火薬を少しまいてみせました。
「ほらね、ただ火の気のないところのほうがいいね、さもないと爆発して、僕たちみんな粉々にされちまうからね」
効果を添えるために「コーリャ」は警告しました。
子供たちは、楽しさをいっそう強めてくれる、うやうやしい恐怖をこめて、火薬をしげしげと眺めました。
しかし、「コースチャ」にはばら弾のほうが気に入りました。
「ばら弾なら燃えない?」
彼はたずねました。
「ばら弾は燃えないさ」
「僕にばら弾を少しくれない」
哀願するような声で彼は言いました。
「ばら弾なら少しあげるよ。ほら、取りなよ。ただ、僕がくるまで、僕が帰ってくるまで、ママに見せちゃだめだよ。でないと、ママは火薬だと思って、それだけで恐ろしさに死んじゃうからね、君たちはぶたれるだろうしさ」
「ママは決してあたしたちのことを鞭でぶったりしないわ」
すぐに「ナースチャ」がききとがめました。
「知ってるさ、話に色を添えるために言っただけだよ。それに、決してママを欺したりしちゃいけないよ、でも、今度だけは、僕が帰ってくるまでの間だからね。それじゃ、ちびっ子たち、僕は出かけてもいいね、それともだめかい? 僕がいなくても、こわくて泣いたりしないね?」
「泣いちゃうよ」
もう泣きださんばかりになって、「コースチャ」が語尾を長くひっぱりました。
「泣いちゃうわ、きっと泣いちゃうから」
怯えたような早口で、「ナースチャ」も相槌を打ちました。
「ああ、子供だな、厄介な年ごろだよ。しょうがないな、いったいいつまで君たちの相手をしていなけりゃならないんだい。それにしても時間がな、時間だよ、ああ!」
「じゃ、ペレズヴォンに死んだ真似をするように言いつけて」
「コースチャ」が頼みました。
「仕方がない、ペレズヴォンにも一役買ってもらわなけりゃ。こい、ペレズヴォン!」
そして「コーリャ」は犬にあれこれと命令しはじめ、犬は知っている芸を残らず披露しにかかりました。
それはごくありふれた雑種犬くらいの大きさの、むく毛の犬で、何やら灰色がかった薄紫色の毛並みをしていました。
右目がつぶれ、左耳はなぜか裂けていました。
犬はきゃんきゃん鳴いて、とびまわり、サービスにつとめて、後肢で歩いたり、足を四本とも上にあげて仰向けに寝たり、死んだように身動き一つせずに横たわったりしてみせました。
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