「たとえ自分の楽しみのために遊んだとしたって、べつにどうってことはないでしょうに?」
「でも、自分のために・・・・あなただって馬車ごっこはしないでしょう?」
「じゃ、こう考えるんですね」
「アリョーシャ」はにっこりしました。
「たとえば、大人は劇場へ行くでしょう、劇場ではやっぱり、いろいろな人物の冒険を演じて、時にはやはり追剝ぎだの戦争だのが出てくることもある。だったら、これだって同じじゃありませんか、もちろん性質は違いますけど。休み時間に若い人たちが戦争ごっこをしたり、追剝ぎごっこをしたりするのも、やはり芸術の芽生えだし、若い心に芽生えかけた芸術欲ですよ。こういう遊びのほうが、往々にして、劇場の演し物よりうまくまとまってるものですよ、ただ違いと言えば、劇場へは役者を見に行くのに、こっちは若い人自身が役者だというだけでね。でも、それはごく自然なことでしょう」
「アリョーシャ」の説明は説得力がありませんが、彼が言いたいことは心の中を二重化して、自分を客観化する自分を想定するということでしょうか、しかし「コーリャ」の問題はそういうところではないと思います。
「そう思いますか? それがあなたの説なんですね?」
「コーリャ」はまじまじと相手を見つめました。
「いや、あなたはかなり興味深い考えをおっしゃいましたね。今日、家に帰ったら、この問題で頭を使ってみましょう。正直に言うと、あなたからいろいろ学ばせていただけると期待していたんです。あなたに教わりに来たんですよ、カラマーゾフさん」
感情をこめた、しんみりした声で、「コーリャ」は結びました。
「僕もそうです」
「アリョーシャ」は彼と握手して、にっこりしました。
「コーリャ」は「アリョーシャ」にきわめて満足しました。
自分をこの上なく対等に扱ってくれ、《大人》に対するような口をきいてくれたのが、心を打ったのです。
「今すぐ手品を一つお目にかけますからね、カラマーゾフさん。これも一つの芝居なんです」
彼は神経質に笑いだしました。
「僕はそのために来たんですよ」
「最初、左手の家主のところへ寄りましょう、部屋が狭くて暑いものだから、あなたのお友達もみんな外套をそっちに置いているんです」
「いえ、僕はほんのちょっといるだけだから、外套のまま入って行きます。ペレズヴォンはここの玄関の土間に残って、死んだ真似をしてますよ。『こい、ペレズヴォン。伏せて、死んだ真似をしろ!』ほらね、死んじゃったでしょう。まず僕が入って、部屋の模様を見たあと、ちょうといいころに口笛を吹いて、『こい、ペレズヴォン!』とよべば、こいつはすぐ、気違いみたいな勢いでとんできますよ。ただ、そのときにスムーロフがドアを開けるのを忘れさえしなければいいんです。僕が切りもりして、手品をお目にかけますから・・・・」
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