「ああ、こういうわけにはいかないかしらね」
ふいに「スムーロフ」が足をとめました。
「だってイリューシャの話だと、ジューチカもむく毛で、やっぱりペレズヴォンみたいに、灰色で、煙ったような色をしていたそうだもの。これがジューチカだよって言うわけにはいかないかな、ひょっとしたら信ずるんじゃないかしらね?」
「中学生よ、嘘を軽蔑せよ、これが第一。たとえよいことのためにでも、これが第二。それと、何より肝心な点だけど、僕が行くことを言わなかっただろうね」
第一と第二がおかしいのですが、これはこれでいいのでしょうか。
「まさか、そんな。僕だってわかってますよ。でも、ペレズヴォンで気が休まるかな」
「スムーロフ」は溜息をついた。
「だってね、あのお父さんの大尉が、例のへちまだ、今日、鼻の黒い本当のマスチフの子犬を持ってくるって、僕たちに話したんですよ。それでイリューシャの気が休まると思ってるらしいけど、でも、まさかね?」
マスチフ犬と言えば巨大な犬のイメージがあるのですが、調べてみるとたくさんの種類があるようです。
「で、容態はどうなんだい、イリューシャの?」
「ああ、わるいんですよ、とてもわるいんです! 僕、結核だと思うな。意識ははっきりしてるんだけど、ただ、息がぜえぜえいうんでね、呼吸が苦しそうなんですよ。この間だって、少し歩かせてくれって頼んだものだから、靴をはかせて、少し歩きかけたら、ころぶんですよ。『ああ、パパ、これは古いほうのわるい長靴だって言ったじゃないか。この靴は今までだって歩きにくかったんだよ』なんて言ってさ。長靴のせいでころぶんだと思ってるけど、本当は衰弱してるからなんです。あと一週間と生きのびられないでしょうよ。ヘルツェンシトゥーベ先生が往診してるんだ。今はあそこの家もまた金持だもの。たくさんお金が入ったんだって」
「イカサマ師さ」
「イカサマ師って、だれのこと?」
「医者さ、一般的に言って、あらゆる医術のろくでなしどもさ、もちろん、一人ひとりをとったってそうだけど。僕は医学を否定するね。無益な制度だもの。もっとも、これは目下研究中なんだ。それにしても、君たちはあそこの家になんてセンチメンタルなことをはやらせたんだい? クラスじゅうであの家に行ってるんじゃないのかい?」
「コーリャ」は医者に対して良くない感情をもっているようですが、これは何か理由があるのでしょうか。
「全部ってわけじゃなく、十人くらいがいつも、毎日あそこへ行くことにしてるんだ。そんなの、たいしたことじゃないもの」
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