「先生、先生! なにせごらんのとおりの有様でして!」
二等大尉はふいにまた両手をふりまわし、絶望にかられて丸太組みの玄関の裸壁をさし示しました。
「ああ、それはわたしの存ぜぬことです」
割り切った考え方ですね、現在の医者はほとんどこのようなタイプになってきました。
医者は苦笑しました。
「わたしはただ、最後の手段についてのご質問に対して、科学の語りうることを申しあげたまでです。それ以外のことは・・・・残念ですが・・・・」
「心配ないですよ、お医者さん、僕の犬は噛みつかないから」
敷居の上に立ちはがかっている「ペレズヴォン」に向けた、医者のいささか不安そうな眼差しに気づいて、「コーリャ」が大声でずけりと言いました。
「コーリャ」の声には憤りの調子がひびいていました。
先生という代りに、彼は《お医者さん》という言葉をわざと(三字の上に傍点)使ったのであり、あとで当人が説明したとおり、《侮辱するために言った》のでした。
「何ですと?」
医者はびっくりしたように「コーリャ」を見つめて、顎をしゃくりました。
「何者です、これは?」
突然彼は、釈明でも求めるかのように「アリョーシャ」に顔を向けました。
「ペレズヴォンの飼い主ですよ、お医者さん。僕の人柄に関してはご心配なく」
「コーリャ」はまた歯切れよく言いました。
「ズヴォン?」
「ペレズヴォン」とは何のことかわからずに、医者がきき返しました。
「自分がどこにいるのか、わかっちゃいないんだな。さよなら、お医者さん、シラクサで会いましょう」
「何だ、そいつは? 何者だ、だれなんだ?」
医者は突然ひどくいきりたちました。
「これはこの町の中学生です、先生、腕白者なんですよ、気になさらないでください」
「アリョーシャ」が眉をひそめて、早口に言いました。
「コーリャ、黙りなさい!」
彼は「コーリャ」に叫びました。
「気になさる必要はございません、先生」
今度はもういくらか苛立たしげに、彼はくりかえしました。
「鞭でたたいてやるといいんだ、鞭で!」
なぜかもうあまりにもかっとなりすぎて、医者はじだんだを踏みかねぬ勢いでした。
「でもね、お医者さん、ペレズヴォンだって相手によっちゃ噛みつくかもしれませんよ!」
「コーリャ」は青ざめ、目を光らせて、ふるえ声で言い放ちました。
「こい、ペレズヴォン!」
「コーリャ、あと一言でも口にしたら、君とは永久に絶交だよ!」
「アリョーシャ」が威圧的に叫びました。
「あのね、お医者さん、このニコライ・クラソートキンに命令できる存在は、全世界に一人きりしかいないんです、それがこの人ですよ」
「コーリャ」は「アリョーシャ」を指さしました。
「この人には服従するんです、じゃあね!」
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