2018年9月20日木曜日

903

「先生、先生! なにせごらんのとおりの有様でして!」

二等大尉はふいにまた両手をふりまわし、絶望にかられて丸太組みの玄関の裸壁をさし示しました。

「ああ、それはわたしの存ぜぬことです」

割り切った考え方ですね、現在の医者はほとんどこのようなタイプになってきました。

医者は苦笑しました。

「わたしはただ、最後の手段についてのご質問に対して、科学の語りうることを申しあげたまでです。それ以外のことは・・・・残念ですが・・・・」

「心配ないですよ、お医者さん、僕の犬は噛みつかないから」

敷居の上に立ちはがかっている「ペレズヴォン」に向けた、医者のいささか不安そうな眼差しに気づいて、「コーリャ」が大声でずけりと言いました。

「コーリャ」の声には憤りの調子がひびいていました。

先生という代りに、彼は《お医者さん》という言葉をわざと(三字の上に傍点)使ったのであり、あとで当人が説明したとおり、《侮辱するために言った》のでした。

「何ですと?」

医者はびっくりしたように「コーリャ」を見つめて、顎をしゃくりました。

「何者です、これは?」

突然彼は、釈明でも求めるかのように「アリョーシャ」に顔を向けました。

「ペレズヴォンの飼い主ですよ、お医者さん。僕の人柄に関してはご心配なく」

「コーリャ」はまた歯切れよく言いました。

「ズヴォン?」

「ペレズヴォン」とは何のことかわからずに、医者がきき返しました。

「自分がどこにいるのか、わかっちゃいないんだな。さよなら、お医者さん、シラクサで会いましょう」

「何だ、そいつは? 何者だ、だれなんだ?」

医者は突然ひどくいきりたちました。

「これはこの町の中学生です、先生、腕白者なんですよ、気になさらないでください」

「アリョーシャ」が眉をひそめて、早口に言いました。

「コーリャ、黙りなさい!」

彼は「コーリャ」に叫びました。

「気になさる必要はございません、先生」

今度はもういくらか苛立たしげに、彼はくりかえしました。

「鞭でたたいてやるといいんだ、鞭で!」

なぜかもうあまりにもかっとなりすぎて、医者はじだんだを踏みかねぬ勢いでした。

「でもね、お医者さん、ペレズヴォンだって相手によっちゃ噛みつくかもしれませんよ!」

「コーリャ」は青ざめ、目を光らせて、ふるえ声で言い放ちました。

「こい、ペレズヴォン!」

「コーリャ、あと一言でも口にしたら、君とは永久に絶交だよ!」

「アリョーシャ」が威圧的に叫びました。

「あのね、お医者さん、このニコライ・クラソートキンに命令できる存在は、全世界に一人きりしかいないんです、それがこの人ですよ」

「コーリャ」は「アリョーシャ」を指さしました。


「この人には服従するんです、じゃあね!」


0 件のコメント:

コメントを投稿