2018年10月24日水曜日

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「何て言いました?」

「アリョーシャ」は急いで水を向けました。

「俺がこう言ってやったのさ。つまり、そうなると、すべてが許されるってわけかって。あいつは眉をひそめて、『うちの親父はだらしない子豚同然だったけど、考え方は正しかったよ』と、こうだぜ。言ったのはそれだけだよ。これはもうラキーチンより純粋だな」

「イワン」が「フョードル」の考え方を正しいというなんて驚きましたね、一体どういう考えに賛同したのでしょうか。

「ええ」

「アリョーシャ」は沈痛に相槌を打ちました。

「いつここへ来たんですか?」

「その話はあとだ。今は別のことを話そう。イワンのことは今までお前にほとんど何も話さなかったな。最後まで延ばしてきたのさ。俺のこの一件が片づいて、判決が言い渡されたら、そのときにいろいろ話してやるよ。何もかも話すさ。一つ恐ろしい問題があるんだ・・・・その問題に関しては、お前に裁判官になってもらうよ。だけど今はその話をはじめないでくれ、今は何も言うな。お前は明日の公判のことを話してるけど、本当のことを言って、俺は何も知らないんだよ」

「あの弁護士と話してみましたか?」

「弁護士なんぞ何だい! 俺は一部始終を話してやったんだぜ。もの柔らかな悪党だよ、都会的な。あれもベルナールさ! 俺の話をこれっぱかりも信じてやしないんだ。俺が殺したと本気で思ってるんだからな、どうだい。俺にはちゃんとわかるさ。『それなら、なぜ俺の弁護を引き受けたんだ?』って、きいてやったよ。あんなやつら、くそくらえだ。それから医者までよんで、俺を気違いに見せようとしてやがる。そうはさせんぞ! カテリーナ・イワーノヴナは最後まで《自分の義務》をはたす気でいるんだ。むりするなって!」

「ミーチャ」は苦々しく笑いました。

「猫め! 冷酷な心の持主だよ! あのとき俺がモークロエで、あれは《深い憤りに燃えた》女だと言ったのを、ちゃんと知ってるんだよ。伝えたやつがいるのさ。そう、証言は海岸の砂ほどたくさん集まったしな! グリゴーリイは自説を言い張ってるし。グリゴーリイは正直だけど、ばかだよ。ばかがいるおかげで、正直者がたくさんできらあね。これはラキーチンの考えだよ。グリゴーリイは俺にとっては敵だ。なかには、友達にしとくより敵にまわすほうが有利な人間もいるけどな。これはカテリーナ・イワーノヴナのことを言ってるのさ。俺は心配だよ、そう、彼女が法廷で、例の四千五百ルーブルを受けとったあとで最敬礼した話をするんじゃないかと、心配でならないんだ。彼女は最後の最後まで借りを返すだろうよ。俺は彼女の犠牲なんぞ望んでやしないのに! あの連中は法廷で俺に恥をかかしてくれるだろうよ! なんとか辛抱するさ。なあ、アリョーシャ、彼女のところへ行って、法廷であの話をしないように頼んでくれよ。それともだめか? えい畜生、どうだっていいや、辛抱するよ! それに彼女なんぞ気の毒じゃないし。自分で望んだんだからな。自業自得さ。アレクセイ、俺は一席ぶってやるぜ」

(827)で「ドミートリイ」は「ネリュードフ」の質問に答えて「・・・・あの人なら僕にその金をくれたはずです。そう、くれるでしょう、きっとくれたにちがいないんだ。僕を見返すためにくれたはずです。復讐の喜びと、僕に対する軽蔑からくれたにちがいない。なぜってあの人もやはり悪魔的な心の持主だし、深い怒りに燃えた女性ですからね!・・・・」と言っていましたね、そして「、例の四千五百ルーブルを受けとったあとで最敬礼した話」と言っていますが、「四千五百ルーブル」ではなく、「五千ルーブル」ですね、(328)で「ドミートリイ」は「・・・・心配するな、俺は長いこと引きとめたりはしなかったよ。ふりかえって、テーブルのところに行くと、引出しを開けて、五千ルーブルの五分利つき無記名債権をとりだした(フランス語辞典の間にしまっておいたんだ)。それから無言のまま彼女にそれを見せて、二つ折りにし、手渡すと、玄関へ通ずるドアを自分で開けてやって、一歩しりぞき、この上なく丁寧な、まごころのこもった最敬礼をしてやった。・・・・」と言っていますので。

彼はまた苦い笑いをうかべました。

「ただ・・・・ただ、グルーシェニカがな、グルーシェニカだよ、問題は! 何のために彼女はこの先こんな苦しみをひっかぶろうとするんだ!」

ふいに涙をこめて彼は叫びました。


「グルーシェニカが俺を悲しませるんだ、彼女のことを思うと悲しみでやりきれなくなるんだよ、悲しみで! さっきもここへ来たんだけど・・・・」


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