2018年10月25日木曜日

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「あの人からききましたよ。今日は兄さんのためにとても悲しい思いをしたんですってね」

「知っている。俺のこの性格はどうしようもないな。焼餅をやいたりしてさ。別れぎわに後悔して、キスしてやったけど。あやまりはしなかったよ」

「なぜあやまらなかったの?」

「アリョーシャ」は叫びました。

「ミーチャ」はだしぬけに、ほとんど楽しそうとさえ言える笑い声をたてました。

「冗談じゃないよ、坊や。自分がわるくたって、好きな女には決してあやまったりするもんじゃない! 好きな女には特にな。たとえどんなにこっちがわるくてもだ! なぜって女ってやつは、これはとんでもない代物だからな。女にかけちゃ、少なくとも俺はわけ知りなんだ! まあ、ためしに自分の非を認めて、『僕がわるかった、ごめんよ、赦しておくれ』なんて言ってみな。とたんに非難が雨あられと浴びせられるから! 決して素直にあっさり赦してくれやしないんだ。ぼろくそにお前をこきおろして、ありもしないことまで数えたて、何から何まで取りだしてきて、何一つ忘れずに、おまけまで付けて、そのうえでやっと赦してくれるだろうよ。おまけに、これならまだいちばんいいほうだ! 最後の残り滓まで掻き集めて、そいつを全部お前の頭にぶちまけるだろうさ。言っとくけど、女にはこういう残忍性があるんだよ。いなけりゃ俺たちが生きていかれない、あの天使のような女たちにも、一人残らず、それがあるのさ! あのね、ざっくばらんに率直に言うけれど、まともな男ならだれだって、たとえ相手がどんな女でも、尻に敷かれているべきなんだよ。それが俺の信念だ。いや、信念というより、感情だな。男は寛大でなけりゃいけない。それは男の恥にはならないんだ。英雄だって恥じゃない、シーザーだって恥にはならんよ! そう、とにかくあやまったりするなよ、どんなことがあっても絶対にな。この原則をおぼえておくといい。これは女のために身を滅ぼした兄貴のミーチャが教えてやったんだからな。いや、俺はあやまったりせずに、何かでグルーシェニカにつくしてやるよ。俺は彼女を敬ってるんだ、アリョーシャ、敬ってるんだよ! ただ、彼女にはそれがわからないだけさ、そう、彼女はまだ俺の愛し方じゃ足りないんだ。そして俺を悩ませるのさ、愛情で悩ませるんだ。これが以前ならどうだい! 以前はあの悪魔的な曲線美が俺を通して自分まで真人間になったんだからな! 俺たちは結婚させてもらえるだろうか? さもないと俺は嫉妬で死んじまうよ。毎日何かそんな夢を見るんだ・・・・彼女は俺のことをどう言ってた?」

「男は寛大」であれというのが、「女のために身を滅ぼした兄貴」の貴重な教えなのですね。

「アリョーシャ」は先ほどの「グルーシェニカ」の言葉を全部くりかえしました。

「ミーチャ」は事こまかくきき、いろいろ問い返して、満足した様子でした。

「それじゃ、俺が妬いたのを怒っていないんだな」

彼は叫びました。

「それでこそ女だ! 『あたし自身だって、残酷な心を持っているもの』か。うん、そういう残酷な女が俺は好きだよ。もっとも、こっちが妬かれる段になると、やりきれないがね、そりゃかなわんよ! 喧嘩になるもの。しかし、愛するとなったら、俺はとめどなく彼女を愛しつづけるよ。俺たちは結婚させてもらえるだろうか? 流刑囚でも結婚させてくれるかな? 問題だぞ。でも彼女なしに俺は生きていかれないんだ・・・・」


「アリョーシャ」によれば「グルーシェニカ」が語ったという『あたし自身だって、残酷な心を持っているもの』というのは、どこに出ているのかわかりませんでした。


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