「ミーチャ」は狂ったように語り終えました。
「アリョーシャ」の肩を両手で押え、渇えたような熱っぽい眼差しをひたと「アリョーシャ」の目に注ぎました。
「流刑囚でも結婚させてくれるだろうか?」
祈るような声で彼は三度目のこの言葉をくりかえしました。
「ドミートリイ」は流刑地で結婚さえできれば、脱走などする必要はないと考えているんですね。
「アリョーシャ」は極度のおどろきとともに話をきき、深刻なショックを受けました。
「ひとつだけ教えてください」
彼は言いました。
「イワンは強く言い張ってるんですか、それから最初にそれを思いついたのは、だれなんです?」
「彼さ、彼が思いついたんだ、そして彼が言い張っているんだよ! ずっとここに来なかったのに、一週間前に突然やってきて、いきなりこの話からはじめたんだよ。ひどくこだわっているぜ。すすめるんじゃなく、命令するんだからな。俺は今お前にしたのと同じように、イワンにも心をすっかりさらけだして、讃歌の話までしたというのに、あいつは俺が言うことをきくと決めてかかっているんだよ。どういうお膳立てをするかも話してくれたし、情報もすべて集めてくれたけど、その話はあとにしよう。ヒステリーに近いくらい、あいつは望んでいるんだよ。肝心なのは金だけど、イワンのやつは、脱走の資金に一万、アメリカ行きには二万ルーブル出すし、一万ルーブルで立派に脱走の手筈をととのえてやる、と言ってるよ」
高額なお金の話が出てくると現実味を帯びますね、関係者を買収するのですね、それにしても「イワン」が「ドミートリイ」のためになぜそこまで危険を犯すのか不自然な気がするのですが、もしこの企てが漏れれば、「カテリーナ」はじめみんなが犯罪者として拘束されると思いますが。
「で、僕には絶対に話すな、と言ったんですね?」
「アリョーシャ」はまた問い返しました。
「決してだれにも言うなってさ。何よりお前にはな。お前には絶対言うなとさ! きっと、お前が俺の前に良心として立ちはだかるのがこわいんだろう。俺が話したってこと、彼には言うなよ。え、言うんじゃないぞ!」
口の軽い人間が念押しする約束とはどうなんでしょうかと思いますね。
「兄さんの言うとおりです」
「アリョーシャ」が結論を下しました。
「判決前には決められませんよ。裁判のあと、自分で決めるんですね。そのときには兄さん自身の内に新しい人間を見いだせるでしょうし、その人間が決めてくれますよ」
「新しい人間が見つかるか、ベルナールが見つかるかわからないけど、そいつがベルナール流に決めてくれることだろうさ! なぜって、俺自身も軽蔑すべきベルナールのような気がするんでな!」
「ミーチャ」は沈痛に笑いました。
「でも、本当に、本当に兄さんはもう無罪になることを全然期待していないの?」
「ミーチャ」はひきつったように肩をすくめ、首を横にふりました。
「アリョーシャ、おい、そろそろ時間だぞ!」
ふいに彼はせきたてました。
「中庭で看守がどなりはじめたから、すぐにここへやってくるだろう。もう遅いから、規則違反なんだ。早く俺を抱いて、接吻してくれ、俺に十字を切ってくれ。明日の十字架のために十字を切ってくれ・・・・」
二人は抱きあい、接吻を交わしました。
「イワンのやつはな」
だしねけに「ミーチャ」が口走りました。
「脱走をすすめときながら、内心では俺が殺したと信じてるんだぜ!」
「イワン」は「ドミートリイ」が犯人だと思っていること、これは大きなことですね。
悲しそうな薄笑いがその口もとににじみでました。
「兄さんはきいてみたの、信じているのかどうかって?」
「アリョーシャ」はたずねました。
「いや、きかなかったよ。きこうと思ったけど、きけなかったんだ。勇気が足りなくてさ。でも、どうせ同じことだよ、目を見りゃわかるもの。じゃ、さよなら!」
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