2018年10月31日水曜日

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「もし俺と何か話をしたいんだったら、話題を変えてくれ、いいね」

突然彼は言いました。

「そうそう、忘れないうちに。兄さんに手紙です」

「アリョーシャ」はおずおずと言い、ポケットから「リーザ」の手紙をぬいて、さしだしました。

ちょうど街燈に近づいたところでした。

作者はこんなところにも気配りが。

「イワン」はすぐに筆跡を見分けました。

「ああ、あの小悪魔からだな!」

意地わるく笑うと、彼は封も切らずに、いきなり手紙をいくつかに引き裂き、風に向って放り投げました。

紙片がちりぢりに飛びました。

「イワン」の態度は良くないですね、頭はいいのでしょうが、態度は最悪です、いいように解釈すれば、
「アリョーシャ」と「リーザ」の仲を「イワン」は知っているので、彼女が自分に好意的であることを見せたくないために、そして自分は彼女のことを何とも思っていないことを「アリョーシャ」に示すために手紙を引き裂いたのかもしれません。

「まだ十六にもならないんだろうが、もう媚びを売ってやがる!」

また通りを歩きだして、彼はさげすむように言い放ちました。

「媚びを売るですって?」

「アリョーシャ」は叫びました。

「きまってるじゃないか、淫らな女がやるのと同じさ」

「何を言うんです、兄さん、何てことを?」

悲しげに、むきになって「アリョーシャ」は弁護しました。

「相手は子供ですよ。あんな子供を侮辱するなんて! あの子は病気なんです。あの子自身も、とても病気が重いんです。もしかしたら、あの子も気が変になりかけているのかもしれない・・・・僕はあの手紙を兄さんに渡さずにいられなかったんです・・・・それどころか、兄さんから何かきけるだろうと思っていたのに・・・・あの子を救ってやるような言葉を」

「俺からきくことなんて何もないさ。あれが子供だとしても、俺は乳母じゃないからな。もう黙れよ、アレクセイ、それ以上言うな。そんなことは考えてもいないんだから」

ところで、「アリョーシャ」は「リーザ」に手紙のことを何て説明するのか心配になります。

二人はまた一分ほど沈黙しました。

「彼女は今日は夜どおし聖母マリヤにお祈りすることだろうよ。明日の法廷でどう振舞えばいいか、教えてもらうためにな」

突然彼はまた憎しみをこめて語気鋭く言いました。

「それは・・・・カテリーナ・イワーノヴナのこと?」

「そうさ。ミーチェニカの救世主になるか、それとも破滅者になるべきか? そのことをお祈りして、心の闇を照らしてもらおうというわけさ。見てのとおり、当人もまだ心の準備ができていないんだ。あれも俺を乳母ととり違えて、子守り唄でもうたわせる気でいるのさ!」

「カテリーナ・イワーノヴナは兄さんを愛しているんですよ」

悲痛な思いをこめて「アリョーシャ」は言いました。

「かもしらんな。ただ、俺は彼女に関心がないのさ」

「あの人は悩んでいるんです。それじゃ兄さんはなぜときおり・・・・気を持たせるようなことを言うんですか?」

おずおずと非難をこめて「アリョーシャ」はつづけました。

「兄さんがあの人に望みを持たせてきたのを、僕は知ってます。こんなことを言って、ごめんなさい」

彼は言い添えました。

「俺はここで必要な態度をとることができないんだ。きっぱり縁を切って、ずばりと言ってやることがさ!」

「イワン」が苛立たしげに言いました。

「あの人殺しに判決が下るまで、待たなけりゃならないんだ。もし今俺が手を切れば、彼女は俺への腹癒せに明日の法廷であの無頼漢を破滅させることだろう、なぜって彼女はあいつを憎んでいるし、自分が憎んでいることを承知しているからな。すべて嘘ばかりさ、嘘の積み重ねだよ! ところが今、俺がまだ手を切らずにいるうちは、彼女もいまだに望みを持っているし、俺があの無頼漢を災難から救いだしたいと思っているのを知っているから、あいつを破滅させるような真似はしないだろう。しかし、いまいましい判決が下った、そのとたんに終りさ!」

「イワン」の気持ちがわかりません、三人で脱走の話を進めていると「ドミートリイ」は言っていましたので、ここでの「イワン」の発言は、その秘密を「アリョーシャ」に気づかせないようにカムフラージュしているのでしょうか、つまり「カテリーナ」と別れたいということも含めて、そうでなければ、《人殺し》とか《無頼漢》とか言ったりしている人間を助けるわけはないですね。

《人殺し》とか《無頼漢》という言葉が、「アリョーシャ」の心に痛くこたえました。

「それにしても、あの人は何によって兄さんを破滅させることができるんですか?」

「イワン」の言葉に思いをこらしながら、彼はたずねました。


「ミーチャをもろに破滅させうるような証言が、あの人にはできるんですか?」


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