彼は「ミーチャ」の脱走をお膳立てするため、自分が三万ルーブル提供しようと決心しました。
が、その日、兄のところから帰る途中、彼はひどく心が滅入り、乱れていました。
「その日」とはいつでしょうか、前後が激しいので時系列がわからなくなってしまいました、(931)で「ラキーチン」と入れ替えに「アリョーシャ」が刑務所に行き「ドミートリイ」と話をします、(939)ではじめて脱走の話が出ます、(940)には「イワンは強く言い張ってるんですか、それから最初にそれを思いついたのは、だれなんです?」という「アリョーシャ」の質問に「ドミートリイ」は「彼さ、彼が思いついたんだ、そして彼が言い張っているんだよ! ずっとここに来なかったのに、一週間前に突然やってきて、いきなりこの話からはじめたんだよ。ひどくこだわっているぜ。すすめるんじゃなく、命令するんだからな。」と言っています、ですから、「その日」とは「アリョーシャ」の刑務所訪問の一週間前の話です。
突然、自分が脱走させようと望んでいるのは、それに三万ルーブル出して爪痕を癒やすためばかりではなく、ほかにも何か理由があるような感じがしはじめたからでした。
『心の中では、俺も同じような人殺しだからではないだろうか?』
彼は自分にたずねてみました。
これは贖罪ということですかね。
何か間接的ではありますが、焼きつくようなものが心を刺しました。
何よりも、このまるひと月の間、彼のプライドはひどく苦しみつづけていました、しかしその話はあとにしましょう・・・・さて、「アリョーシャ」との話のあと、自分の下宿の呼鈴をつかんでから、突然「スメルジャコフ」を訪ねる決心をすると、「イワン」はふいに心の中に煮え返った一種特別な憤りに屈しました。
たった今「カテリーナ」が、「アリョーシャ」のいる前で、「あの人(つまりミーチャ)が犯人だと、あたしに言い張ったのは、あんたよ、あんただけよ!」と叫んだことを、ふいに思いだしたからです。
それを思いだして、「イワン」は呆然とさえなりました。
犯人は「ミーチャ」だなどと、これまで彼はただの一度も彼女に主張したことはありませんでしたし、それどころか、「スメルジャコフ」のところから帰ってきたあのときなぞ、彼女の前で自分自身に嫌疑をかけたほどでした。
むしろ反対に、彼女(二字の上に傍点)こそ、あのとき《文書》を取りだして、兄の有罪を証明したではないか!
それなのに突然今になって、「あたし、スメルジャコフのところに自分で行ってみたのよ!」などと叫ぶとは!
いつ行ったのだろう?
「イワン」はそのことを全然知りませんでした。
知らないのはおかしいのではありませんか、そんな重要なことを知らせないと言うのは「イワン」と「カテリーナ」の関係はどうなっているのでしょう、へんです。
つまり、彼女は「ミーチャ」の有罪をすっかり信じているわけではないのだ!
それに、「スメルジャコフ」が彼女に何を言うかわかったものではありません。
いったい何を、何をあの男は彼女に言ったのだろう?
恐ろしい怒りが彼の心に燃えあがりました。
どうして三十分ほど前に彼女のそんな言葉をきき流し、その場でどなりつけずにいられたのか、わかりませんでした。
彼は呼鈴を放りだすと、「スメルジャコフ」の家に向って走りだしました。
『今度ばかりは、ことによると、あいつを殺すかもしれない』
道々、彼は思いました。
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