2018年11月20日火曜日

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八 スメルジャコフとの三度目の、そして最後の対面

まだ道半ばで、この日の朝と同じように、身を切るような乾いた風が吹き起り、細かいぱさついた雪がさかんに降りはじめました。

雪は地面に落ちても積ることなく、風に巻き上げられ、間もなく本格的な吹雪になりました。

この町の、「スメルジャコフ」がすんでいるあたりには、ほとんど街燈もありません。

「イワン」は吹雪ににも気づかず、本能的に道を選り分けながら、闇の中を歩いて行きました。

頭痛がし、こめかみの辺がやりきれぬくらいずきずきしました。

両の手首が痙攣しているのを、彼は感じました。

吹雪の夜にこんな体調で外出すること自体が正常ではないと思います、当時天気予報などなく、状況によっては危険なんじゃないでしょうか。

「マリヤ」の家までもう少しということろで、「イワン」は突然たった一人でやってくる酔払いに出会いました。

つぎだらけの外套を着た小柄な百姓で、千鳥足で歩きながら、ぶつくさと毒づいていましたが、ふいに悪態をやめると、酔払いのかすれ声で歌をうたいだしました。

ああ、ワーニカはピーテルに行っちゃった、
あたしは彼を待ったりしない!

この歌の歌詞の「ワーニカ」というのは、(278)で「イワン」の愛称と書かれていた「ワーニャ」の女性形なのでしょうか、いや違いますね、次に「あたしは彼を・・・・」とありますので男性ですね、「チェーホフ」の作品に「ワーニカ」というタイトルの作品があるそうです、また、「ピーテル」を調べると「サンクトペテルブルクの名称は、公式にはこれまで三度変わっており、通称となるとたくさんある。「ピーテル」という通り名は、建都後すぐに現れ、「北方のパルミラ」は、初めは、都市そのものではなく、当時、国を治めていた女帝に奉られたものだった。」とありましたので「ピーテル」は「サンクトペテルブルクですね、あるブログでこんな文章を見つけました、つまり「ワーニカはイヴァン、ピーテルは首都ペテルスブルグのこと。「イヴァン(ワーニカ)が去ったの」。で、あたし(スメルジャコフ)はフョードルを殺害したのだ!」の意である。」と。

しかし、百姓はいつもこの二行目で歌をやめて、まただれかを罵り、それからまた同じ歌をうたいはじめるのでした。

「イワン」はもうだいぶ前から、この百姓のことなぞまだ全然考えてもいないのに、恐ろしい憎しみを感じていましたが、突然この百姓を意識しました。

とたんに百姓の頭を拳で殴りつけてやりたい気持を抑えきれぬほど感じました。

たまたまその瞬間、百姓がひどくよろけて、いきなり「イワン」に力いっぱいぶつかりました。

「イワン」は凶暴に突きとばしました。

(278)に同じようなことが書かれていました、「だが、すでに座席についていたイワンが、無言のまま、いきなり力まかせにマクシーモフの胸を突いたので、相手は二メートルもすっとびました。」、その時も「イワン」は馭者台に跳びのろうとした「マクシーモフ」を突き飛ばしています。

百姓はすっとんで、凍りついた地面に丸太のようにころがり、一度だけ「おお!」と病人のように唸って、ひっそりとなりました。

「イワン」はそばに歩みよりました。

百姓は意識を失って、まったく身動きもせず、仰向けに倒れていました。

『凍死するぞ!』

「イワン」はこう思っただけで、ふたたび「スメルジャコフ」の家をさして歩きだしました。

なんだか、このシーンは「ドミートリイ」が倒れた「グリゴーリイ」を見にいったことを思い出します。

まだ玄関にいるうちに、蝋燭を手にしてドアを開けに走りでてきた「マリヤ」が「パーヴェル・フョードロウィチ(つまり、スメルジャコフ)はお加減がとても悪く、お寝みになっているわけではないが、ほとんど正気と言えぬご様子で、お茶も召しあがろうとせず、片づけるようにおっしゃった、とささやきました。

「で、どうなんだ、暴れたりするのか?」

「イワン」はぞんざいにたずねました。

「とんでもない、反対にまるきりお静かなんでございますよ。ただ、あまり永くお話をなさらないでくださいまし・・・・」

「マリヤ」が頼みました。

「イワン」はドアを開けて、小屋に入りました。

この前のときと同じように暖房がひどくきいていましたが、部屋の模様にはいくらか変化が見られました。

壁のわきにあったベンチの一つが取りのけられ、そのあとにマホガニーに似せた古い大きな革張りのソファが置かれていました。

ソファには、寝床が敷かれ、かなりこざっぱりした枕がのせてありました。

寝床に「スメルジャコフ」が、相変らず例のガウンを着て坐っていました。

テーブルがソファの前に移されたため、部屋の中がひどく狭苦しくなりました。

テーブルの上に黄色い表紙の分厚な本がのっていましたが、「スメルジャコフ」はその本を読んでいたわけではなく、坐って何もせずにいたようでした。

無言の長い眼差しで彼は「イワン」を見つめ、明らかに「イワン」の訪問をいささかもふしぎに思っていない様子でした。

すっかり顔が変り、ひどくやつれて、色が黄ばんでいました。


目は落ちくぼみ、下まぶたが青でした。


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