2019年3月27日水曜日

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型どおりの儀式のあと、墓掘り人夫たちが柩をおろしました。

「スネギリョフ」は両手に花をかかえたまま、口を開けている墓穴の上へ思いきり身を乗りだしたため、少年たちがぎょっとして彼の外套をつかみ、うしろに引きもどしたほどでした。

しかし、彼はもう何が起っているのか、よくわからないようでした。

墓穴に土を撒き入れる段になると、彼はふいに気がかりそうな様子で落ちてゆく土を指さして、何やら言いはじめましたが、だれにも何のことやらわかりませんでしたし、それに彼自身も急に静かになりました。

ここでパンの耳をちぎってまくよう注意を促されると、彼はひどく気をもみはじめ、パンの耳をつかみだし、細かくちぎって墓の上に撒きはじめました。

「さ、飛んできておくれ、小鳥たち、飛んできておくれ、雀たち!」

彼は気がかりそうにつぶやいていました。

花を両手にかかえていてはパンをちぎりにくいだろうから、一時だれかに花を預けたらと、少年たちのだれかが忠告しかけました。

しかし彼は花を渡そうとせず、かえって突然、まるでだれかに花を全部取られそうになったみたいに、怯えた様子を見せ、墓を眺めて、もうすべてが終ってパン屑もまいたことを確かめると、突然、意外なくらいまったく平静に向きを変え、のろのろとわが家に向って歩きだしました。

ところが、その歩調がしだいに小刻みに気ぜわしくなってゆき、ほとんど走らんばかりに急ぎだしました。

少年たちと「アリョーシャ」は遅れぬようにあとにつづきました。

「かあちゃんに花をやるんだ、かあちゃんに花を! かあちゃんに気の毒なことをしちまった!」

だしぬけに彼は叫びだしました。

帽子をかぶりなさい、でないともう寒いからと、だれかが声をかけましたが、それをきくなり、彼は怒りにかられたように帽子を雪の上にたたきつけ、「帽子なんぞ要るもんか、帽子なんぞ要るもんか!」と口走りはじめました。

「スムーロフ」少年が帽子を拾いあげて、あとにつづきました。

少年たちは一人残らず泣いていました。

いちばんはげしく泣いていたのは「コーリャ」と、トロイの創設者を知っていた例の少年で、大尉の帽子を腕にかかえた「スムーロフ」も、やはりおいおいと泣いてはいましたが、それでもほとんど走らんばかりに急ぎながら、小道の雪の上に赤く映えていた煉瓦の破片を拾いあげて、すばやく飛びすぎた雀の群れめがけて投げつけるだけの余裕はありました。

もちろん、石は当らず、少年は泣きながら走りつづけました。

道のりの半分ほどまでくると、「スネギリョフ」が突然立ちどまり、何かショックでも受けたように三十秒ほど立ちつくしていましたが、いきなり教会の方に向き直ると、今あとにしてきたばかりの墓をさして突進しようとしました。

しかし少年たちがすぐに追いつき、四方からしがみつきました。

彼はがっくりしたように力なく雪の上に倒れ、身もだえして、泣きわめきながら、「坊主、イリューシェチカ、かわいい坊主!」と叫びはじめました。


「スネギリョフ」は正常ではないですね、帽子を投げ捨てたことや、墓の方に引き返そうとしたことについては、怒りの表現でしょうか、彼は普通なら背負わなくていいような多くの事を背負いすぎているのでしょう。


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