2019年3月29日金曜日

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「あれがイリューシャの石です。あの下に葬りたいと言ってたんですよ!」

みなは無言で大きな石のそばに立ちどまりました。

「アリョーシャ」は石を見つめました。

すると、「イリューシェチカ」が泣きながら父に抱きついて、『パパ、パパ、あいつはパパにひどい恥をかかせたんだね!』と叫んだという話を、いつぞや「スネギリョフ」からきかされたときの光景が、一時に記憶によみがえってきました。

胸の中で何かが打ちふるえたかのようでした。

彼は真剣な、重々しい様子で、「イリューシャ」の友達である中学生たちの明るいかわいい顔を見渡し、だしぬけに言いました。

「ねえ、みんな、僕はここで、ほかならぬこの場所で、みんなに一言話しておきたいんだけど」

少年たちは彼をとりかこみ、すぐに期待にみちた食い入るような眼差しを注ぎました。

「みなさん、僕たちは間もなくお別れします。僕はさしあたり今、もうしばらくの間は二人の兄についていてあげるけど、一人の兄は流刑に行くし、もう一人は死の床についています。でも、もうすぐ僕はこの町を立ち去ります。たぶん非常に永い間。だから、いよいよお別れなんです、みなさん。このイリューシャの石のそばで、僕たちは第一にイリューシャを、第二にお互いにみんなのことを、決して忘れないと約束しようじゃありませんか。これからの人生で僕たちの身に何が起ろうと、たとえ今度二十年も会えなかろうと、僕たちはやはり、一人のかわいそうな少年を葬ったことを、おぼえていましょう。その少年はかつては、おぼえているでしょう、あの橋のたもとで石をぶつけられていたのに、そのあとみんなにこれほど愛されたのです。立派な少年でした。親切で勇敢な少年でした。父親の名誉とつらい侮辱を感じとって、そのために立ちあがったのです。だから、まず第一に、彼のことを一生忘れぬようにしましょう、みなさん。たとえ僕たちがどんな大切な用事で忙しくても、どんなに偉くなっても、あるいはどれほど大きな不幸におちいっても、同じように、かつてここでみんなが心を合わせ、美しい善良な感情に結ばれて、実にすばらしかったときがあったことを、そしてその感情が、あのかわいそうな少年に愛情を寄せている間、ことによると僕たちを実際以上に立派な人間にしたかもしれぬことを、決して忘れてはなりません。僕の小鳩たち-君たちをそうよばせてください。なぜなら、今この瞬間、君たちの善良なかわいい顔を見ていると、あの美しい灰青色の鳥にみんな実によく似ているからです。かわいい子供たち、ことによると僕が今から言うことは、君たちにはわからないかもしれない。僕はひどくわかりにくい話をよくしますからね、だけどやはり僕の言葉をおぼえていてくれれば、そのうちいつか同意してくれるはずです。・・・・」

ここで「アリョーシャ」の言葉をいったん切ります。


あと、この小説も残り数ページになりましたが、これから続く「アリョーシャ」の最後の言葉が小説全体の集約というわけではないでしょう、なにしろこれは作者の絶筆であり、しかも第二部が書かれていない未完の小説なんですから、それにおそらく集約などという言葉自体がこの長大な小説ではあり得ないでしょう、比喩的に言えば、太陽のように黄金の光を周囲に放ちつつ無限に反復しながら、未来に向けて航行しているかのようです。


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