2019年3月4日月曜日

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「フェチュコーウィチ」の弁論の続きです。

「・・・・しかし、陪審員のみなさん、あなた方の確信をでしょうか、みなさんの確信まで買収できるのでしょうか? 思いだしてください、あなた方には無限の権力が、縛りあげ断罪する権限が与えられているのです。だが、権力が強ければ強いほど、その適用は恐ろしいものです! わたしは今申しあげたことをいささかも譲りはしませんが、しかし、かまいません。なんなら一瞬だけ、わたしの不幸な依頼者が父親の血で手を汚したという検事論告に同意してもいい。これは仮定にすぎませんし、くりかえして申しますが、わたしは被告の無実を一瞬たりとも疑ってはおりません。しかし、いいでしょう、被告が父親殺しに関して有罪であると仮定します。だが、たとえわたしがそのような仮定を認めたにせよ、とにかくわたしの言葉をきいてほしいのです。わたしはまだみなさんに申しあげたいことが、胸につかえているからです・・・・みなさんの心と理性に大きな葛藤の生ずるのを予感しているからです・・・・みなさんの心と理性などいいうわたしの言葉を、どうか許してください、陪審員のみなさん。だが、わたしは最後まで誠実に正直にしたいのです。われわれはみな、誠実になろうではありませんか!」

この個所で弁護人の言葉は、かなり強い拍手によってさえぎられました。

たしかにまた、彼は最後の数話をいかにも誠実なひびきのこもった口調で語ったため、だれもが、ことによると本当に何か言いたいことがあるのかもしれない、彼が今から言うことがいちばん重要なのだ、と感じたのです。

しかし、裁判長は、拍手をきくと、もしもう一度《こうした出来事》がくりかえされたら《退廷を命ずる》と大声で警告しました。

すべてが鳴りをひそめ、「フェチュコーウィチ」は今まで話してきたのとはまったく違う、何か新しい、しみじみした声で語りはじめました。


裁判長はどうして警告したのでしょうか、拍手が大きすぎたのでしょうか、しかし《こうした出来事》がくりかえされたら《退廷を命ずる》というのは、悪いのは聴衆ではなく「フェチュコーウィチ」の方であり、拍手を起こさせたのかいけないというのでしょう、つまり、陪審員や聴衆に対して直接語りかけるような発言はしてはいけないということでしょうか。


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