2017年5月11日木曜日

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「いいえ、そうじゃなくて・・・全然そういうんじゃないんですよ。あそこで・・・あそこで今、どちらにも会ってきたんです」

「何だい、どちらにもってのは?」

「カテリーナ・イワーノヴナのところに、グルーシェニカがいたんですよ」

「ドミートリイ」はあっけにとられました。

「そんなはずが!」と、彼は叫びました。「お前、夢でも見てるんだろう!グルーシェニカが彼女のところにいるなんて?」

「アリョーシャ」は、「カテリーナ」の家に入っていったときから自分の身辺に起ったことを、すっかり話してきかせました。

話したのは十分ほどで、お世辞にも淀みない流暢な話ぶりとは言えませんでしたが、いちばん肝心な言葉や、肝心な動きをつかみ、しばしば自分自身の感情を特徴的な一点でありありと伝えながら、明確に雰囲気を伝えたようでした。

「アリョーシャ」が話した「いちばん肝心な言葉や、肝心な動き」とは何でしょう。

最初「カテリーナ」は「ドミートリイ」の印象を聞きたいと言って歓待され、「アリョーシャ」が『よろしく』という兄の別れの言葉を伝えても、それは今だけ自暴自棄になっているのだから彼を永遠に救ってあげたいと言われたこと、また、三千ルーブルをモスクワに送らなかったことをすでに知っていること、「グルーシェニカ」の今でも愛する将校が近くの町に来ていて近々会うこと、「ドミートリイ」が「フョードル」を殴り倒したこと、「グルーシェニカ」の手にキスしたが「グルーシェニカ」が返さなかったこと、そして、あの運命の日「カテリーナ」が「ドミートリイ」のところへお金を借りに言ったことまでも「グルーシェニカ」が知っていたことに怒ったことなどでしょうか。

そして、「自分自身の感情を特徴的な一点で」とは何でしょう。

「カテリーナ」が「ドミートリイ」の『よろしく』という伝言を強調しているのは単なる空元気からであって本心ではないと言ったことに対し、「アリョーシャ」は「そうです、そうですとも!」と熱っぽく相槌を打っていますが、彼が感情を出したのはここだけだと思いますが、この「特徴的な一点」とはよくわかりません。

兄の「ドミートリイ」は無言できき、不気味なほど身じろぎ一つせずにひたと見つめていましたが、兄がもうすべてを理解し、いっさいの事実の意味をあきらかにさせたことが、「アリョーシャ」にははっきりわかりました。

だが、話が先へすすむにつれて、兄の顔はますます、陰気にというのではなく、なにか凄味を帯びてきました。

眉を険しく寄せ、歯を食いしばり、じっと据わった眼差しはますます凝然とした、執拗な、恐ろしいものになってきました・・・それだけに、これまで怒りに燃えて凶暴な表情をうかべていたその顔が、ふいに理解しがたい早さでがらりと一変したときは、よけい思いがけませんでした。

固く結ばれていた唇がほころび、「ドミートリイ」はだしぬけに、どうにも抑えきれぬ心底からの笑いを爆発させました。

文字どおり笑いころげ、永いこと笑いのために口もきけぬほどでした。


「ドミートリイ」の態度の急変については彼の心の動きの意味がわかりませんが、急変というよりは内面の二重性のような気がします。


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